三重県と滋賀県の県境に雄大にそびえる鈴鹿山脈の主峰、御在所岳は標高1,212メートルの名峰として多くの登山愛好家や観光客を魅了し続けています。伊勢神宮を創建した倭姫命がこの地に仮の御座所を設けたという伝説に由来するこの山は、古来より神聖な存在として崇められてきました。御在所岳の最大の魅力は、四季折々に全く異なる表情を見せてくれることにあります。春には淡い色彩のツツジが山肌を彩り、夏には天然の涼風が訪れる人々を癒し、秋には燃えるような紅葉が山全体を覆い尽くし、冬には幻想的な樹氷が白銀の世界を創り出します。また、この山は二つの顔を持っています。一つは花崗岩の奇岩が連なる登山者の挑戦意欲を掻き立てる荒々しい山としての顔、もう一つは日本最大級のロープウェイによって誰もが気軽に絶景を楽しめる開かれた自然公園としての顔です。修験者が切り拓いた祈りの道は時代と共に近代登山の舞台となり、今では年間数十万人が訪れる三重県を代表する観光スポットへと進化を遂げました。

御在所岳の地質と自然が生み出す絶景
御在所岳の景観を特徴づけているのは、山体が花崗岩で形成されているという地質的な特性です。硬質でありながらも風雨による侵食を受けやすい花崗岩は、永い年月をかけて独特のダイナミックな地形を生み出しました。登山道を歩けば、あるいはロープウェイのゴンドラから見下ろせば、屹立する岩壁や絶妙なバランスで存在する奇岩の数々に目を奪われることでしょう。
中でも象徴的なのが中道登山道の途中に現れる地蔵岩とおばれ岩です。地蔵岩は二つの岩の間に四角い岩が挟まり、まるでお地蔵様が鎮座しているかのように見える奇岩で、絶対に落ちないことから受験生に人気のパワースポットとして知られています。一方のおばれ岩は、大きな岩が下の岩をおんぶしているように見えることからその名がつきました。これらの奇岩は単なる写真映えの対象に留まらず、御在所岳の地質学的な個性を物語る生きた証人なのです。
この花崗岩質の土壌は登山道にも険しさをもたらし、岩がちな急登やザレ場は登山者に相応の技術と体力を要求しますが、同時に変化に富んだ山歩きの醍醐味も提供してくれます。また、御在所岳は標高差が大きいことから植生の垂直分布が顕著に見られる植物の宝庫としても知られています。山麓には温暖帯性の植物が、中腹には温帯性の植物が、そして山頂付近には亜高山帯性の植物が分布し、日本各地の植生を凝縮したかのような多様性を見せてくれます。
特にツツジ科の植物が豊富で、春にはアカヤシオ、シロヤシオ、ベニドウダン、サラサドウダンなどが次々と開花し、山を優美に彩ります。これらの植物は春の華やかさだけでなく、秋には鮮やかな紅葉の主役となり、御在所岳の四季の景観を決定づける重要な要素となっているのです。
修験道から観光地へと進化した歴史
御在所岳の歴史は自然への畏敬と信仰から始まります。古くは修験者たちが修行の場としてこの山に分け入り、その険しい道を歩みました。山頂に御岳神社が祀られていることからも、山岳信仰の対象であったことがうかがえます。明治元年には浄蓮寺の僧であった覚順によって開山されたと伝えられていますが、それ以前から人々の営みと深く関わってきた歴史があります。
江戸時代には菰野山と呼ばれ、1858年には本草学者の伊藤圭介らが植物調査のために登頂するなど、学術的な関心も寄せられていました。明治時代に入り、1885年に山頂に一等三角点が設置されると、近代的な地図作成の基準点としての役割も担うことになりました。
昭和期に入ると御在所岳は新たな局面を迎えます。1939年に名古屋山岳連盟が山小屋「北谷道場」を建設し、クライマーの聖地として知られる藤内壁のルート開拓が盛んに行われました。そして1950年には国民体育大会の山岳競技が藤内壁で開催され、御在所岳は全国的なロッククライミングの名所としての地位を確立しました。
この山の歴史における最大の転換点は、1959年の御在所ロープウェイの開業です。これにより専門的な登山家だけでなく、一般の観光客も容易に山頂の世界に触れることが可能になりました。信仰の山から挑戦の山へ、そして誰もが楽しめる憩いの山へと、御在所岳の歴史は時代と共に変化する人々と自然との関わり方を映し出す鏡と言えるでしょう。
四季それぞれの魅力を堪能する
御在所岳の最大の魅力は、訪れる季節によって全く異なる感動を与えてくれることにあります。多くの山が特定のシーズンに見頃を迎えるのに対し、御在所岳は一年を通じて主役が交代する劇場のような場所です。
春の季節である3月下旬から6月にかけては、長い冬の眠りから覚めた山が生命の息吹に満ち溢れます。3月下旬にはマンサクがまず咲くことからその名がついたと言われるように、いち早く春の訪れを告げます。その後、4月から5月にかけては淡いピンク色のアカヤシオ、純白のシロヤシオといったツツジ科の花々が、岩肌に残る冬の厳しさと対照的な優美な風景を描き出します。新緑が日に日に深まり、イワウチワなどの可憐な花々が足元を飾るこの季節は、生命力に満ちた山の姿を堪能できます。
夏の季節である7月から9月にかけては、山麓の町が厳しい暑さに見舞われる頃、標高1,212メートルの御在所岳山頂は天然のクーラーとなり、涼を求める人々で賑わいます。麓との気温差は10度以上にもなり、爽やかな風に吹かれながらの散策は格別です。この時期、山頂付近では無数のアカトンボが飛び交い、夏の風物詩となっています。緑が最も濃くなる季節であり、力強い自然の中で心身ともにリフレッシュすることができます。
秋の季節である10月中旬から11月下旬にかけては、御在所岳が最も華やぐ時期です。山頂から麓の温泉街まで、標高差を利用して約1ヶ月以上もの長期間にわたり紅葉が楽しめます。ツツジ科の赤、クスノキ科の黄色、針葉樹の緑が織りなす色彩のグラデーションは圧巻の一言に尽きます。
冬の季節である12月から3月にかけては、厳しい寒さがもたらす自然の芸術である樹氷と氷瀑が見どころです。空気中の水分が木々に凍りつき、まるで白い花が咲いたかのように輝く樹氷は、冬の御在所岳を象徴する光景です。ロープウェイで手軽にこの白銀の世界へアクセスでき、山頂には三重県唯一のスキー場も開設されます。初心者や家族連れでも、そり遊びやスキーを手軽に楽しむことができるのです。
空中散歩を楽しむ御在所ロープウェイ
御在所岳の魅力を万人に開かれたものにしている立役者が、1959年に開業した御在所ロープウェイです。全長2,161メートル、高低差780メートルを約12分から15分で結ぶこのロープウェイは、単なる移動手段ではありません。それ自体が絶景を堪能するためのアトラクションであり、御在所岳の自然をダイナミックに体感できる特等席なのです。
道中で乗客の誰もが息をのむ瞬間があります。それは眼前に巨大な白い鉄塔が迫ってくる時です。通称白鉄塔と呼ばれるこの第6号支柱は、高さが61メートルあり、ロープウェイの支柱としては日本一の高さを誇ります。標高約943メートルの地点にそびえ立ち、その圧倒的な存在感は御在所岳の象徴となっています。1959年の開業当時は他の支柱と同じ緑色でしたが、1964年に視認性を高めるために白く塗り替えられ、以来、遠く知多半島からでもその姿を確認できるランドマークとなりました。
この空中散歩の体験をさらに特別なものにしているのが、2018年に導入された新型ゴンドラルミエールです。フランス語で光を意味するこのゴンドラは、側面ガラスを極限まで大きくした360度のパノラマビューが特徴です。さらに床の一部には展望窓が設けられており、足元に広がる渓谷や木々の梢を直接見下ろすスリリングな体験ができます。定員8名から10名のゴンドラは1分間隔で運行されており、四季折々の風景を余すところなく楽しむための工夫が凝らされています。
運行時間は季節によって変動するため注意が必要です。夏期である4月から11月は9時から17時まで、冬期である12月から3月は9時から16時までと、冬期は1時間短縮されます。料金は往復と片道が選択でき、体力に自信があれば登りは自力で、下りはロープウェイといった柔軟な計画も可能です。各種割引制度も充実しており、JAF会員証の提示による割引や、名古屋からの高速バス利用者向けのクーポンなど、知っていればお得に利用できる制度があります。
山上公園で過ごす至福の時間
約12分の空中散歩を終え、山上公園駅に降り立つと、そこは別世界が広がっています。ここで注意すべきは、ロープウェイの終着駅が御在所岳の最高地点ではないということです。山頂エリアは山上公園として整備されており、その魅力を最大限に味わうには駅からさらに散策する必要があります。
駅舎には伊勢平野を一望しながら食事を楽しめる展望レストラン ナチュールや、軽食と土産物を扱うアルペンホール、アウトドアブランドのモンベルルームなどがあり、休憩や買い物に便利です。公園内には遊歩道が整備されており、気軽に散策が楽しめます。
まず目指したいのは山頂へ続く観光リフトです。この一人乗りのリフトに乗れば、爽やかな風を感じながら約8分で御在所岳の最高地点エリアに到達できます。山頂エリアにはいくつかの絶景ポイントが点在しています。東側にある富士見岩展望台は、その名の通り気象条件が良ければ富士山を望むことができる絶壁の展望台で、眼下には四日市のコンビナートや伊勢湾が広がります。一方、西側には御在所岳の最高地点である標高1,212メートルの望湖台があり、こちらは琵琶湖や雨乞岳方面の眺望が開けています。ロープウェイ駅で満足せず、これらの展望ポイントまで足を延ばすことで、初めて御在所岳の雄大なパノラマを360度満喫することができるのです。
紅葉シーズンの混雑対策
御在所岳、特にロープウェイは紅葉シーズンである10月中旬から11月下旬になると爆発的な人気を博し、深刻な混雑が発生します。この時期の週末には30万人から50万人が訪れることもあり、快適な観光のためには周到な計画が不可欠となります。
最も大きな問題は交通渋滞と駐車場不足です。ロープウェイ乗り場に最も近い公式駐車場は約300台から350台の収容能力しかなく、紅葉シーズンの土日祝日には朝8時の時点で満車になることも珍しくありません。駐車場待ちの車列が国道まで伸び、1時間以上の渋滞に巻き込まれることも頻発します。ロープウェイの乗車待ちも同様で、混雑のピーク時にはチケット購入から乗車まで1時間半から2時間以上待つこともあります。
この混雑を回避するための戦略として、最も確実な方法は徹底的な早朝行動です。紅葉シーズンの週末であれば、遅くとも朝8時までには駐車場に到着することを目指したいところです。可能であれば週末を避けて平日に訪れるだけで、混雑は大幅に緩和されます。また、車の利用を諦め、電車とバスを乗り継いでアクセスする方法も有効です。特に麓の複合リゾート施設アクアイグニスに車を停め、そこから発着する路線バスを利用する裏技は注目に値します。このバスは一部専用ルートを通るため、一般車両の渋滞を回避できる可能性があるのです。多くの観光客が集中する午前中を避け、午後14時以降に訪れると比較的スムーズに乗車できる可能性もあります。
御在所岳の紅葉が見せる独特の色彩美
秋の御在所岳は山全体が錦の衣をまとったかのような絶景に包まれます。その美しさは東海地方でも屈指とされ、毎年多くの観光客や登山者を魅了してやまないのです。御在所岳の紅葉の最大の特徴は、山頂から麓の温泉街まで約1ヶ月という長い期間をかけて紅葉前線がゆっくりと下りてくることにあります。
標高差が約800メートルあるため、山全体が一斉に色づくのではなく、標高の高い場所から順番に見頃を迎える紅葉のリレーが展開されるのです。これにより訪れる時期によって全く異なる紅葉風景に出会うことができます。山上エリアである標高1,000メートルから1,212メートルの範囲は例年10月中旬から10月下旬が見頃で、ツツジ科の赤や橙色が中心となります。中腹エリアである標高600メートルから1,000メートルの範囲は10月下旬から11月中旬が見頃で、ロープウェイからの眺めが最も美しい時期です。麓エリアである標高400メートルから600メートルの範囲は11月中旬から11月下旬が見頃で、湯の山温泉街周辺が色づき、カエデやモミジの鮮やかな赤色も加わって渓流沿いの散策が楽しめます。
京都の寺社で見るような燃えるようなカエデの赤一色の紅葉を想像して御在所岳を訪れると、少し意外に思うかもしれません。御在所岳の紅葉はそれとは異なる独特の色彩構成を持っています。山頂から中腹にかけての主役はカエデやモミジではなく、この山の植生を特徴づけるツツジ科の植物たちなのです。アカヤシオやベニドウダン、サラサドウダンといったツツジ科の葉が鮮やかな赤色や橙色に染まり、そこにシロモジなどのクスノキ科の樹木が織りなす黄色が加わります。そしてこれらの落葉樹の間に常緑の針葉樹が点在し、その深い緑色が全体の色彩を引き締めます。この赤と黄と緑の三色がモザイクのように入り混じり、山肌に複雑で美しいタペストリーを描き出すのです。これこそが御在所岳ならではの紅葉の風景なのです。
紅葉の名所を巡る
御在所岳には雄大な地形を活かした紅葉の名所が数多く存在します。アクセス方法や体力レベルに合わせて、様々な角度から錦秋の絶景を堪能することができます。
ロープウェイから見下ろす空中散歩は最も手軽でありながら最もドラマティックな紅葉鑑賞方法です。日本一の高さを誇る白鉄塔の周辺は谷が深く切れ込んでおり、ロープウェイからの眺めが最もダイナミックになるポイントです。ゴンドラが谷間を通過する際、眼下に広がる赤と黄と緑のグラデーションは、まさに空中から紅葉狩りをしているかのような贅沢な体験となります。
ロープウェイを降りた先の山上公園は、遊歩道を散策しながら紅葉を楽しめるエリアです。特に山上公園駅に隣接する展望レストラン ナチュールからの眺めや、山頂へと続く観光リフトに乗りながら見渡す360度の紅葉は格別です。
登山者だけの特権として大黒岩があります。一ノ谷新道や山上公園から少し足を延ばした場所にあるこの知る人ぞ知る絶景スポットは、絶壁の上に突き出た巨岩から眼下に広がる紅葉の絨毯と、その中を進むロープウェイのゴンドラ、そして遠く伊勢湾までを一望できます。
紅葉前線が麓まで下りてきた11月中旬以降は湯の山温泉街の散策が楽しみです。三滝川沿いにある大石公園では、白い御影石の巨岩と紅葉、そして赤い橋が織りなす風情ある景観が広がります。また、明治創業の老舗である旅館寿亭の庭園も見事な紅葉スポットとして知られています。
夜空を彩る幻想のランタンイベント
御在所岳の秋は日中の絶景だけでなく、夜にも特別なイベントが用意されています。紅葉シーズン中の特定の日に開催されるGOZAISHO秋灯は、秋の夜空を幻想的に彩るランタンイベントです。このイベントはロープウェイ山麓駅の駐車場を会場に行われ、参加者は願いを込めたランタンを夜空に放ちます。オレンジ色の柔らかな光を灯した数十個のランタンが一斉に夜空へと浮かび上がっていく光景は、息をのむほど美しいものです。ランタンは糸で繋がれており、イベント終了後には全て回収されるため環境にも配慮されています。
一般的な紅葉のライトアップとは異なりますが、澄んだ秋の夜空と麓の夜景を背景に無数の光が揺らめく様は、忘れられない思い出となるでしょう。開催日は限定されており、ランタンの数も50個と限られているため、参加を希望する場合は事前に公式サイトで日程を確認し、早めに現地で受付を済ませる必要があります。
本格登山で挑む御在所岳
御在所岳はロープウェイで気軽に山頂を訪れることができる一方で、多様な登山道が整備された本格的な登山の山でもあります。花崗岩が織りなす奇岩や岩稜、変化に富んだ地形は多くの登山愛好家を惹きつけてやまないのです。しかしその魅力は時に危険と隣り合わせでもあります。
御在所岳の登山道は観光地の延長線上にある遊歩道ではありません。たとえ初心者向けと紹介されているコースであっても、本格的な山岳地帯であるという認識が不可欠です。特にスニーカーや軽装で安易に入山することは非常に危険です。岩場やザレ場が多い御在所岳では、足首を保護し滑りにくい靴底を持つしっかりとした登山靴が必須装備となります。
安全登山の基本として登山届の提出は必ず行いたいところです。万が一の遭難時に迅速な救助活動に繋がる重要な手続きです。登山口に設置されたポストに投函するほか、現在ではオンラインでの提出が推奨されています。滋賀県警のウェブサイトや登山地図アプリのYAMAP、登山届受理システムのコンパスなどを利用すれば、自宅で手軽に提出が可能です。
特に秋山シーズンは気象条件に細心の注意が必要となります。日照時間は夏に比べて格段に短くなり、午後にはあっという間に暗くなるため、早出早着を心がけたいところです。また標高が上がるにつれて気温は急激に下がります。麓が暖かくても山頂では氷点下になることもあり、防寒着は必携です。10月以降は予期せぬ降雪の可能性も考慮し、軽アイゼンなどの滑り止めも準備しておくと安心です。
人気の登山コース紹介
御在所岳には複数の登山コースがありますが、2025年5月より最も人気だった中道コースはおばれ岩の崩落危険のため当面の間通行止めとなっています。登山計画の際は必ず最新の情報を確認し、他のコースを選択してください。
中道コースに代わる人気ルートとして裏道コースがあります。多くのガイドで初心者向けと紹介されているこのルートは、比較的勾配が緩やかで登山口がロープウェイ山麓駅のすぐ近くにありアクセスが良いことが特徴です。コースは序盤、沢沿いを緩やかに登っていき、途中には山小屋の藤内小屋があり休憩や宿泊も可能です。しかし初心者向けという言葉を鵜呑みにするのは早計です。コースタイムが登りで約3.5時間と長く相応の体力が求められ、沢沿いの道は石がゴロゴロしており歩きにくく、雨後などは増水や滑りやすさに注意が必要です。さらにルート上には鎖場も存在し、道が不明瞭な箇所もあるため地図読みの基本的なスキルは必須となります。
武平峠コースは鈴鹿スカイラインの武平トンネル付近からスタートする最短時間で山頂を目指せるルートです。標高が高い地点から登り始めるため高低差は少ないものの、急登の岩場が続くため幼児連れなどには不向きです。体力に自信がないが自力で登頂したいという人におすすめのコースと言えます。
表道コースは距離は短いものの急登が続く健脚向けのルートです。過去に落石対策工事で通行止めになっていたことがあるため、計画時には最新の通行情報を確認する必要があります。一ノ谷新道は中道登山口の近くから始まる急峻な尾根コースで、キノコ岩や鷲見岩といった奇岩があり展望も良好です。中道と同様にアスレチック性が高いですが、利用者はこちらの方が少ない傾向にあります。
最新登山道情報の確認が重要
御在所岳の登山計画を立てる上で最も重要なのは最新の情報を確認することです。御在所岳の登山道は自然災害や工事によって予告なく通行止めになることがあります。中道コースの長期閉鎖が最も重要な情報として、2025年5月以降当面の間通行止めとなっています。その他のコースも過去に臨時閉鎖となった実績があります。
また、武平峠コースの登山口となる鈴鹿スカイラインである国道477号は、例年12月中旬から3月下旬まで冬季閉鎖となり車両の通行ができなくなります。混雑が激しい紅葉シーズンの週末には鈴鹿スカイラインでマイカー規制が行われることもあります。これらの情報は登山者の安全に直結します。出発前には必ず御在所ロープウェイの公式サイトや菰野町観光協会のウェブサイトなどで、最新の登山道およびアクセス道路の情報を確認する習慣をつけましょう。
御在所岳へのアクセス方法
御在所岳へのアクセスは出発地や目的に応じて多様な選択肢があります。特に2018年に新名神高速道路の菰野インターチェンジが開通して以降、自動車でのアクセスが格段に向上しました。
自動車でのアクセスは新名神高速道路の菰野インターチェンジが最寄りとなります。インターチェンジから御在所ロープウェイ乗り場までは約10分から15分と非常に近く便利です。各登山口へのアクセスも菰野インターチェンジを起点に考えると分かりやすいでしょう。ただし前述の通り、紅葉シーズンの週末は深刻な渋滞が発生するため早朝の到着が必須となります。
公共交通機関を利用する場合、最終的な玄関口は近鉄湯の山線の終点である湯の山温泉駅となります。そこからロープウェイ乗り場までは三重交通の路線バスで約8分から10分です。名古屋からは高速バスを利用すれば約60分から80分で到着し、料金は片道1,800円程度です。名鉄バスセンターから直通で乗換なしが最も楽なアクセス方法です。電車とバスを乗り継ぐ場合は約90分で料金は1,490円程度となり、近鉄名古屋駅から近鉄四日市駅で乗り換え、さらに近鉄湯の山線で湯の山温泉駅へ、そこからバスでロープウェイ前へと向かいます。
大阪からは電車とバスで約3時間、近鉄大阪難波駅から近鉄特急で近鉄四日市駅まで行き、そこで乗り換えます。京都からは電車とバスで約2時間45分、近鉄京都駅から近鉄特急で大和八木駅と近鉄四日市駅で乗り換えるルートとなります。
登山の拠点となる湯の山温泉
御在所岳の東麓に広がる湯の山温泉は、登山の拠点としてまたそれ自体が旅の目的となる魅力的な温泉地です。その歴史は古く、養老2年である718年に薬師如来のお告げによって発見されたと伝えられ、開湯1300年以上の歴史を誇ります。傷ついた鹿が湯に浸かって傷を癒したという伝説から鹿の湯の別名も持っています。
泉質はアルカリ性ラジウム泉で、神経痛や胃腸病などに良いとされるほか、肌を滑らかにする効果が高いことから美人の湯として特に女性に人気があります。登山でかいた汗を流し、疲れた筋肉を癒すには最高の温泉と言えるでしょう。多くの旅館やホテルで日帰り入浴を受け入れており、宿泊せずとも気軽に名湯を楽しむことができます。
代表的な施設には、源泉100パーセントかけ流しを誇る複合リゾートのアクアイグニス、絶景の展望露天風呂が自慢のホテル湯の本、趣の異なる貸切風呂が人気の老舗寿亭などがあります。湯の山温泉には個性豊かな宿泊施設が揃っており、旅のスタイルに合わせて選ぶことができます。
贅沢でデザイン性を求めるなら、著名なシェフやパティシエが集うアクアイグニスの敷地内に佇む一棟貸しのヴィラであるアクアイグニス別邸 湯の山温泉 素粋居がおすすめです。土や石、木など自然素材をテーマにした12棟の離れはそれぞれがアート作品のような空間で、全棟に源泉かけ流しの露天風呂が付いておりプライベートな時間を満喫できます。
歴史と風格を味わうなら明治44年創業の老舗旅館である旅館 寿亭が最適です。皇族も宿泊したという国登録有形文化財の水雲閣など、歴史の重みを感じさせる建物が魅力です。趣の異なる6つの貸切風呂や手入れの行き届いた庭園も素晴らしい体験を提供してくれます。
絶景を堪能するなら御在所ロープウェイ乗り場のすぐ目の前という絶好のロケーションにあるホテル湯の本が良いでしょう。最大の自慢は伊勢平野の夜景や鈴鹿の山々を一望できる展望露天風呂です。登山後の疲れを癒しながら刻一刻と変わる景色を眺める時間は格別な体験となります。
モダンリゾートで楽しむなら温泉と宿泊、食事、アートが融合した複合リゾート施設であるアクアイグニスがおすすめです。源泉100パーセントかけ流しの片岡温泉を中心に、辻口博啓氏のスイーツ店や石窯パン、奥田政行氏のイタリアンなど、食の魅力も満載です。日帰りでも一日中楽しめる施設となっています。
駐車場の選択が一日を左右する
自動車で訪れる場合、駐車場の情報は極めて重要です。特に混雑期にはどこに停めるかで一日のスケジュールが大きく左右されます。御在所ロープウェイ駐車場はロープウェイ利用者に最も便利な駐車場で、収容台数は約300台から350台、料金は1日1,000円です。紅葉シーズンの週末は朝8時頃には満車になるため早着が必須となります。
中道登山口駐車場である割谷駐車場は中道コースの登山口に最も近い無料駐車場ですが、収容台数は約50台と少ないため、こちらも早朝に埋まることが多い状況です。武平峠駐車場は武平峠コースの登山口にある無料駐車場で、約20台と非常に小規模なため週末はすぐに満車となります。湯の山温泉協会駐車場は温泉街にある有料駐車場で約60台収容可能、料金は1,000円となっています。
これらの主要駐車場が満車になると路上駐車をする車も見受けられますが、交通の妨げや危険を伴うため避けるべきです。混雑が予想される日は公共交通機関の利用や、前述のアクアイグニス駐車場からのバス利用を積極的に検討することをおすすめします。
目的別のおすすめモデルコース
家族向けロープウェイと山上公園満喫コースは、登山はしないが御在所岳の雄大な自然を家族で楽しみたいという方に最適です。朝9時に御在所ロープウェイ駐車場に到着し、早めに着いて混雑を避けます。9時30分にロープウェイに乗車し、日本一の白鉄塔や眼下の景色を楽しみながら約12分の空中散歩を堪能します。10時に山上公園駅に到着後、観光リフトに乗り換えて山頂へ向かい、10時30分から富士見岩展望台や望湖台を散策します。子供でも歩きやすい遊歩道で絶景ポイントからのパノラマを満喫できます。12時には展望レストラン ナチュールで昼食を取り、御在所カレーうどんなどの名物メニューを楽しみます。冬季の場合は13時30分からそり専用ゲレンデで雪遊びができ、スキーをしなくても子供と一緒に安全にそり滑りが楽しめます。15時に下りのロープウェイに乗車し、麓の売店でお土産を探し、16時に帰路につきます。時間に余裕があれば麓のアクアイグニスでスイーツを楽しむのも良いでしょう。
登山初心者向け裏道登山と湯の山温泉で癒しコースは、初めて御在所岳の登山に挑戦する人向けの達成感と癒しを両立させるプランです。朝8時にロープウェイ駐車場に到着し登山準備を整え、8時30分に裏道登山口から登山を開始します。沢沿いの道を自分のペースでゆっくりと登り、10時30分に藤内小屋で小休憩を取ります。12時30分に御在所岳山頂に到着し、山頂の広場で昼食休憩を取ります。14時には下山はロープウェイを利用し、登りで歩いた道を上空から眺め異なる視点からの景色を楽しみます。14時30分にロープウェイ山麓駅に到着し、15時には湯の山温泉の日帰り入浴施設へ向かいます。美人の湯で登山の汗と疲れをじっくり癒し、17時に温泉でリフレッシュした後、帰路につきます。
健脚向け武平峠からの速攻登山と周辺散策コースは、中道コースが閉鎖されている現在、体力に自信のある登山者におすすめの代替チャレンジコースです。朝7時30分に鈴鹿スカイラインをドライブし武平峠駐車場に到着します。駐車スペースが少ないため早着が必須です。8時に武平峠登山口から登山を開始し、急な岩場を慎重にしかしスピーディーに登ります。隣に聳える鎌ヶ岳の姿も美しく楽しめます。9時30分に御在所岳山頂に到着し、10時には山頂から国見峠方面へ足を延ばします。尾根沿いの道からは中道コースの奇岩群や藤内壁を眺めることができます。11時に国見岳までピストンし再び御在所岳山頂へ戻り、12時30分に武平峠へ下山を開始します。13時30分に駐車場に帰着し、14時には時間に余裕があるため車で蒼滝など湯の山温泉周辺の自然スポットを散策します。16時に温泉で汗を流し、帰路につきます。
何度でも訪れたくなる三重の名峰
御在所岳は訪れる者に多様な顔を見せる実に懐の深い山です。ある者は花崗岩の険しい岩肌に挑み自らの限界を試し、またある者はロープウェイの窓から広がる絶景に心を奪われ自然の雄大さに感嘆します。秋には燃えるような紅葉の色彩に酔いしれ、冬には樹氷の繊細な美しさに息をのみます。そしてその麓には1300年の歴史を持つ名湯が湧き、訪れる人々の心と体を優しく癒してくれるのです。
一つの山がこれほどまでに多彩な魅力と体験を提供してくれる場所はそう多くはありません。登山というアクティブな挑戦、ロープウェイからのパノラマ鑑賞という安らぎ、四季折々の自然美、そして歴史ある温泉文化、これらすべてが御在所岳という一つの舞台の上で見事に融合しています。
一度訪れればきっとまた別の季節に、別のルートでこの山の新たな顔に会いに来たくなるでしょう。神々が座すと言われるこの三重県の至宝は、常に両腕を広げ何度でも訪れる人々を温かく迎え入れてくれるに違いありません。四季を通じて異なる表情を見せる御在所岳は、登山愛好家にとっても観光客にとっても何度でも足を運びたくなる特別な場所なのです。
コメント