樽前山の冬登山は、北海道の雄大な雪景色と活火山ならではの迫力ある地形を楽しめる、冬季限定の特別な登山体験です。特に積雪期にのみ通行可能な北尾根ルートは、スノーシューを使って深い雪の森と白銀の稜線を歩くことができ、冬山初心者がステップアップを目指す山としても人気があります。この記事では、樽前山の冬登山について、北尾根ルートの詳細からスノーシューの使い方、必要な装備、危険への対策、初心者が段階的に準備する方法、下山後の温泉情報まで徹底的に解説します。

樽前山とは?北海道を代表する活火山の魅力
樽前山は、北海道の支笏洞爺国立公園内に位置する活火山で、標高は最高点の溶岩ドーム(樽前ドーム)で1,041メートル、一等三角点のある東山で1,022メートル、西山で994メートルです。日本二百名山にも選ばれており、北海道を代表する登山スポットのひとつとなっています。
樽前山は支笏湖の南東側にそびえる三重式火山で、山頂には外輪山の内部に中央火口があり、その中に世界的にも珍しい溶岩円頂丘(ドーム)が存在しています。この溶岩ドームは明治42年(1909年)の噴火によって形成されたもので、学術的にも非常に貴重な存在であり、北海道の天然記念物に指定されています。
山頂からの展望は圧巻の一言です。支笏湖のパノラマはもちろん、太平洋や苫小牧市街地、天気が良ければ遠く羊蹄山や大雪山系まで見渡すことができます。冬季はこれらの景色が雪化粧をまとい、支笏湖ブルーと呼ばれる透き通った青い湖水と白い雪のコントラストが、言葉にならないほどの絶景を生み出します。
なお、樽前山は現在も活動を続ける活火山であり、気象庁による常時観測の対象となっています。登山の際には気象庁の火山情報を事前に確認し、噴火警戒レベルに応じた行動を取ることが大切です。
冬季の樽前山登山が夏と大きく異なる理由
夏の樽前山は、7合目の駐車場から東山山頂まで約1時間で到達でき、初心者でも気軽に登れる山として人気があります。しかし、冬になると状況は大きく変わります。
最も大きな変化はアクセス面です。7合目駐車場までの市道樽前観光道路(5合目ゲートから7合目駐車場までの区間)は、例年11月上旬から翌年5月下旬まで冬期閉鎖となり、車で7合目まで行くことができません。道々141号線(樽前錦岡線)の一部区間(丸山ゲートから錦岡ゲート)も冬季通行止めとなります。このため冬季の樽前山登山では夏とは異なるルートやアプローチが必要となり、5合目ゲート前の駐車は道道利用者の迷惑となるため避けるべきとされています。冬季に樽前山を目指す登山者の多くが利用するのが、積雪期限定の「北尾根ルート」です。
冬の樽前山は積雪によってすべての景色が白銀の世界に一変します。7合目から上は樹木がほとんどなく「裸山」と呼ばれる状態であるため、風の影響を直接受けます。天候が安定している日には真っ白な雪原の向こうに溶岩ドームがそびえ立つ迫力ある光景を楽しめる一方、荒天時には猛吹雪やホワイトアウトに見舞われることもあり、視界が1メートル未満になったという記録も残っています。
北尾根ルートの特徴と見どころ:積雪期限定の特別な登山道
北尾根ルートは、樽前山の冬季登山において最も人気のあるルートです。このルートの最大の特徴は、積雪期限定であるという点にあります。夏場は藪が生い茂っていて通行困難な場所が、冬になると雪で藪が埋まり、歩行可能なルートとして開かれます。登山口は国道276号沿いの林道から入山する形になり、冬にしか歩くことのできない特別感から多くの冬山登山者に愛されています。
北尾根ルートの前半:樹林帯の雪の森を歩く
ルート前半は樹林帯の中を登っていきます。木々に囲まれた雪の森を進む区間は、北海道らしい深い雪景色を楽しめるパートです。スノーシューを履いていても、ふかふかの新雪が積もっている時期には足が沈み込みますが、それも冬山ならではの醍醐味といえるでしょう。
北尾根ルートの中盤以降:見晴台から一気に広がる絶景
中盤以降は徐々に樹林帯を抜け、傾斜がきつくなっていきます。見晴台と呼ばれるポイントに到達すると、一気に視界が開け、支笏湖や周辺の山々を見渡すことができます。この見晴台までの所要時間はおよそ1時間30分が目安です。
北尾根ルートの上部:アイゼンへの切り替えが必要な場面も
見晴台から先はさらに傾斜が増し、雪面の状態によってはアイゼンやピッケルが必要になることもあります。雪がしっかり締まっている場合にはスノーシューの刃がよく効いて登りやすいですが、氷化した斜面ではアイゼンへの切り替えが必要です。北尾根ルートは夏の7合目からのルートに比べると距離も標高差も大きく、体力的にもそれなりの負荷がかかりますが、冬にしか味わえない特別な登山体験が待っている点で挑戦する価値は十分にあります。
スノーシューの基礎知識:初心者が知っておくべき選び方と歩き方
スノーシューとは、雪の上を歩くための道具で、靴に装着して使用します。雪面に対する接地面積を大きくすることで浮力を得て、深い雪でも沈みにくくなるという仕組みです。日本語では「西洋かんじき」と呼ばれることもあります。
樽前山の北尾根ルートに適したスノーシューの選び方
スノーシューは大きく分けて平地の雪上散歩用と登山用の二種類があります。樽前山の北尾根ルートのように傾斜のある登山道を歩く場合は、登山用のスノーシューを選ぶ必要があります。登山用のスノーシューは裏面にクランポン(爪)がついており、雪面をしっかりとグリップすることができます。
スノーシューの大きさについては、長いものほどデッキの面積が大きくなり浮力が高まるため、新雪の多い平坦な場所での使用に適しています。一方、コンパクトなサイズのスノーシューは軽量で取り回しが良く、急登や変化の多い地形で歩きやすいという特徴があります。樽前山の北尾根ルートでは樹林帯の中を歩く場面や急斜面がある場面が想定されるため、登山用のコンパクトなタイプが向いています。
スノーシューの装着方法と歩き方のコツ
スノーシューの装着は必ず雪の上で行います。装着前にトレッキングポールの先端などで靴底の雪を叩いて落としておくことが大切です。靴底に雪が多量に付着していると、ゆるみの原因になります。
歩き方にはいくつかのコツがあります。まず、両足の間隔はやや大きめに開くことが重要です。スノーシューを履いた足は通常の靴よりも大きいため、普段と同じ間隔で歩くとスノーシュー同士がぶつかってしまいます。両足の向きは常に平行に保ちましょう。歩く時は歩幅を大きめにとり、スノーシューを無理に持ち上げずにかかとを引きずるように歩くと足への負担を軽減できます。登りの場面ではつま先を踏み込む意識で歩くと、クランポンの爪が雪面をしっかりとらえて足が後ろに流されることを防ぎます。
ヒールリフトバーとトレッキングポールの活用
多くの登山用スノーシューにはヒールリフトバーという機能がついています。急斜面を登る際にこのバーを立てると靴のかかとが高くなり、重心をしっかりと鉛直方向にかけることができます。これによりふくらはぎへの負担が大幅に軽減され、長時間の登りでも疲れにくくなります。
トレッキングポールもスノーシューハイキングには欠かせないアイテムです。平坦な場所ではひじが直角になるように長さを調整し、登りでは短めに、下りでは長めに調整するのが基本です。ポールがあるとバランスが格段に取りやすくなり、特に深い雪の中や急斜面での安定感が増します。
樽前山の冬登山に必要な装備を徹底解説
樽前山の冬登山を安全に楽しむためには、夏山の装備に加えて冬山特有の装備が必要です。ここでは主要な装備について詳しく解説します。
冬山用の登山靴とアイゼンの選び方
冬山用の登山靴は、保温材(ゴアテックスデュラサーモやプリマロフトなど)が入っており、靴底がしっかりしていてアイゼンが確実に装着できるものを選びます。一般的な三季用の登山靴では寒さで足先が冷えるだけでなく、アイゼンの装着が不安定になる場合があります。靴下は保温性の高い厚手から極厚手のウール素材がおすすめです。ウールは濡れても保温性が維持されるため、汗をかいても足が冷えにくいという利点があります。替えの靴下も必ず持参しましょう。
アイゼンは10本爪から12本爪のものが必要で、樽前山の北尾根ルートでは上部の雪面が凍結している場合にスノーシューからアイゼンに切り替えることがあります。スノーシューとアイゼンの両方を携行するのが理想的です。
ピッケルの役割と重要性
ピッケルは歩行中のバランス補助に使い、急斜面では雪面に刺して手がかりにします。最も重要な役割は滑落停止で、万が一滑落した際にピッケルのピックを雪面に打ち込んで停止する技術に使います。ただし、この技術は事前の練習が必須であり、いきなり本番で使えるものではありません。
ウェア類のレイヤリングと防風対策
レイヤリング(重ね着)が冬山の基本です。ベースレイヤーには吸湿速乾性のある素材(メリノウールや化学繊維)を選び、ミドルレイヤーにはフリースやダウンなどの保温着、アウターレイヤーには防水透湿性のあるハードシェルジャケットとパンツを着用します。樽前山は特に南側山腹が海まで開けているため、木が倒れるような暴風が吹くこともあり、防風性の高いアウターは必須です。
グローブ・帽子・ゴーグルなどの防寒小物
防水のアウターグローブと保温性のあるインナーグローブを組み合わせ、濡れに備えて予備のグローブも必ず携行します。グローブが濡れると手が急速に冷え、凍傷のリスクが高まるためです。帽子は耳まで覆える保温性の高いものを選び、強風時の凍傷防止にバラクラバ(目出し帽)も携行しておくと安心です。冬山では雪面からの照り返しが強く、紫外線から目を守るためにゴーグルやサングラスが必須となります。ホワイトアウト時や吹雪の際にはゴーグルが視界を確保する重要な役割を果たします。
その他の必携装備
ロングタイプのゲイター(スパッツ)は深い雪の中での靴への雪の侵入を防ぐ必携装備です。バックパックは日帰り登山であれば25リットルから30リットルの容量が目安で、ピッケルやスノーシューが外付けできる機能を備えたモデルが便利です。そのほか、ヘッドランプ(冬は日が短いため必須)、地図とコンパス(GPSも併用推奨)、ツエルト(緊急用のビバーク装備)、行動食と水(保温ボトル推奨)、救急キットなども必ず携行してください。
レイヤリング(重ね着)の詳細ガイド:冬の樽前山で命を守るウェア選び
冬の樽前山登山において、ウェアのレイヤリングは命に関わる重要な要素です。レイヤリングとは薄手のウェアを複数枚重ねて着ることで、状況に応じた温度調節を可能にする着こなし方です。発汗前に一枚脱ぎ、寒さを感じる前に一枚足すといった細かな調整がしやすい点がポイントとなります。
ベースレイヤーの重要性と素材選び
ベースレイヤーは肌に直接触れる最も内側のウェアで、冬山では最も重要なレイヤーです。汗を素早く吸い取り外側へ放出する機能が求められます。素材はメリノウール混のものがおすすめで、汗で濡れても寒くなりにくいという特性があります。逆に、綿素材は絶対に避けてください。綿は水分を吸収しやすい反面乾きにくいため、湿った状態で長時間着用していると蒸発とともに体温が奪われ、低体温症のリスクが格段に高まります。
ミドルレイヤーとアウターシェルの役割
ミドルレイヤーは保温を担う中間のウェアで、フリースや化繊のインサレーション(中綿入り)ジャケットが一般的です。行動中に着用する場合は通気性と速乾性を兼ね備えたものを選び、休憩時にはダウンジャケットを追加で羽織ると急速な体温低下を防げます。ダウンは保温性に優れていますが濡れると保温力が大幅に低下するため、行動中よりも休憩時の使用に向いています。
アウターシェルは最も外側に着るウェアで、風と雪から体を守る「防風の砦」となるレイヤーです。防水透湿素材(ゴアテックスなど)のものを選ぶと、外からの雪や雨を防ぎつつ内側の汗の蒸気を逃がすことができます。樽前山は風が強い山として知られているため、フードの調整機能やベンチレーション(換気口)がしっかりしているものが理想的です。
下半身のレイヤリングも重要で、ベースレイヤーとして保温性のあるタイツ、その上に登山用のパンツ、さらにアウターとしてハードシェルパンツを履きます。膝の動きを妨げない立体裁断のものを選びましょう。
こまめなレイヤリング調整が低体温症を防ぐ
レイヤリングで最も大切なのはこまめに調整することです。登り始めは寒くても歩き始めるとすぐに体温が上がります。汗をかく前にミッドレイヤーを脱ぎ、風が出てきたらアウターのジッパーを閉め、休憩に入ったらすぐにダウンを羽織る。この細かな調整を怠ると汗冷えによって体力を奪われ、低体温症のリスクが高まります。
冬山登山の危険性と対策:樽前山で注意すべきリスク
冬の樽前山は夏とは比べものにならないほどのリスクが伴います。安全に楽しむためにはこれらの危険を正しく理解し、適切な対策を講じることが不可欠です。
悪天候とホワイトアウトへの備え
冬山で最も恐ろしいのは悪天候です。悪天候下では転倒や滑落、ルートの見失い、低体温症、凍傷、雪崩など、さまざまなリスクに遭遇する可能性が格段に高くなります。冬山での過去の大きな遭難事故のほとんどは悪天候のときに発生しています。登山の計画段階では1週間くらい前から天気予報をチェックし、山行当日に天気が悪くなりそうであれば計画を延期や中止するのが賢明です。
樽前山は7合目から上が「裸山」で視界を遮るものがないため、吹雪やガスの発生時にはホワイトアウトになるリスクがあります。ホワイトアウトになると視界が白一色になり、方向どころか上下の感覚さえわからなくなることがあります。ホワイトアウト時には無理に行動を続けずにツエルトをかぶるなどして保温に努めながら、視界が開けるまでその場で辛抱強く待つことが重要です。
低体温症と凍傷を防ぐ対策
北海道の冬の気温は平地でもマイナス10度以下になることがあり、山の上ではさらに厳しい寒さとなります。風が吹くと体感温度はさらに下がり、低体温症のリスクが高まります。低体温症は体の中心部の温度が下がることで判断力が低下し、最悪の場合は命に関わる症状です。防寒対策を万全にし、行動中は適切に水分と食料を摂取することが大切です。
凍傷は指先、つま先、耳、鼻など体の末端部分に起こりやすく、防寒グローブや保温性の高い靴、耳を覆う帽子などでしっかりと保護する必要があります。少しでも感覚がなくなったら温かい場所で温めるなどの処置が必要です。
滑落リスクと火山活動への注意
樽前山の上部は傾斜があり、雪面が凍結している場合には滑落のリスクがあります。アイゼンとピッケルを適切に使用し、確実な足運びを心がけてください。滑落停止の技術は登山講習会などで事前に練習しておくことを強くおすすめします。
また、樽前山は活火山であるため噴火の可能性も考慮に入れる必要があります。登山前に気象庁の噴火警戒レベルを必ず確認し、レベルが上がっている場合は登山を中止してください。ヘルメットの携行も検討すべきです。
初心者が冬の樽前山に挑戦するためのステップアップ方法
冬の樽前山は雪山に慣れた登山者向けのルートですが、登山経験を積んだ初心者が適切な準備を経てステップアップする山としても人気があります。ただし、いきなり冬の樽前山に挑むのではなく、段階を踏んで準備を進めることが安全への近道です。
まずは夏の樽前山で山の地形を把握する
夏から秋にかけて樽前山に登り、山の地形や雰囲気を把握しておくことをおすすめします。7合目駐車場から東山山頂までの一般ルートは往復で約2時間程度とコンパクトで、初心者でも十分に楽しめます。この時にルートの特徴や山の全体像を頭に入れておくと、冬に訪れた際にも安心感が違います。
体力づくりと冬山装備の事前練習
冬山登山は夏山に比べて格段に体力を消耗します。スノーシューを履いての深雪歩行、重い冬山装備の携行、寒さに対抗するためのエネルギー消費など、夏山の1.5倍以上の体力が必要とされることもあります。積雪期はコースタイムの1.5倍の時間を見積もって行動することが推奨されています。日頃からランニングやハイキングなどで基礎体力を養っておきましょう。
アイゼン、ピッケル、スノーシューなどの冬山装備は事前に使い方を練習しておく必要があります。特にアイゼンでの歩行やピッケルを使った滑落停止はいきなり本番で行えるものではなく、登山用品店が主催する講習会や雪山教室に参加するのがおすすめです。
北海道の初心者向け冬山で経験を積んでからステップアップ
北海道には冬山初心者が練習に適した山がいくつかあります。藻岩山、三角山、大倉山、円山、紋別岳などは多くの登山者が利用しておりトレース(踏み跡)がしっかりしているため、安全に冬山を体験できます。これらの山で冬山の基本を身につけてから、樽前山にステップアップしましょう。
初めての冬の樽前山は必ず経験者と一緒に
初めて冬の樽前山に挑戦する場合は、必ず冬山経験者と一緒に登ってください。単独での冬山登山は経験豊富な登山者でもリスクが高い行為です。登山サークルやガイドツアーを活用するのも良い方法です。
冬季の樽前山へのアクセス方法と注意点
冬季の樽前山へのアクセスは夏とは大きく異なります。ここでは主なアクセス方法を紹介します。
車でのアクセスとスタッドレスタイヤの必要性
札幌方面からは国道453号線を経由して支笏湖方面へ向かいます。札幌中心部から支笏湖までは車で約1時間程度です。千歳方面からは国道36号線経由、苫小牧方面からは道道141号線経由でもアクセスできます。
ただし冬季は道道141号線の一部区間や市道樽前観光道路が通行止めとなるため、夏のように7合目駐車場まで車で行くことはできません。北尾根ルートを利用する場合は国道276号沿いの林道入口付近に駐車スペースを確保する必要があります。冬の路面は積雪や凍結の可能性があるため、スタッドレスタイヤの装着は必須です。
公共交通機関でのアクセスは限定的
冬季の公共交通機関でのアクセスは限定的です。新千歳空港やJR千歳駅から支笏湖方面へ路線バスが運行されていますが、冬季は本数が少なくなる場合があります。登山口への直接のアクセス手段は限られるため、車でのアクセスが現実的です。
登山届の提出と緊急時の備え
冬山登山において登山届の提出は非常に重要です。万が一の遭難時に救助活動の手がかりとなります。
登山届は北海道警察のウェブサイトや、YAMAPやヤマレコなどの登山アプリを通じてオンラインで提出することができます。登山届には登山者の氏名、連絡先、緊急連絡先、登山ルート、予定日時、装備の概要などを記載します。また、家族や知人にも登山の計画を伝えておくことが大切です。予定の下山時刻を過ぎても連絡がない場合に、迅速な救助要請につなげることができます。
携帯電話は樽前山の山域では場所によって通じない場合もあります。バッテリーは寒さで急速に消耗するため、モバイルバッテリーを携行し、携帯電話は内ポケットなど体温で温められる場所に保管しておくことを推奨します。
下山後の楽しみ:支笏湖周辺の温泉で冷えた体を癒す
冬の樽前山を無事に下山した後は、冷えた体を温泉で温めるのが最高の楽しみです。支笏湖周辺には日帰り入浴ができる温泉施設がいくつかあります。
| 施設名 | 特徴 | 日帰り入浴受付時間 | 料金 |
|---|---|---|---|
| 丸駒温泉旅館 | 大正4年(1915年)創業の老舗。支笏湖の水位で湯船の深さが変わる天然露天風呂。「日本秘湯を守る会」加盟 | 10時〜14時(15時退館) | 大人1,200円、子供600円 |
| しこつ湖鶴雅リゾートスパ水の謌 | 支笏湖畔のリゾートホテル。湖の景色を眺めながら入浴可能 | 11時30分〜15時 | — |
| 休暇村支笏湖 | 国立公園内のリゾートホテル。ビュッフェスタイルの食事も楽しめる | 11時〜14時30分(15時退館) | — |
なかでも丸駒温泉旅館は、足元から温泉が湧出するという全国的にも珍しい天然露天風呂が特徴で、登山で疲れた体を癒すのに最適です。登山後に支笏湖の美しい冬景色を眺めながらゆったりと過ごす時間は、冬の樽前山登山の醍醐味のひとつといえるでしょう。
冬の樽前山登山を計画する際のポイント
冬の樽前山登山を安全に楽しむためには、綿密な計画が欠かせません。
登山に適した時期と行動時間の目安
樽前山の冬登山シーズンは一般的に12月下旬から3月にかけてです。積雪が安定してスノーシューで歩きやすくなる1月から2月が最も適した時期といえますが、この時期は気温が最も低く天候も変わりやすいため、天気予報の確認は入念に行いましょう。
冬の日照時間は短く、北海道では日の出が7時頃、日の入りが16時頃(1月の場合)となります。実質的な行動可能時間は8時間から9時間程度です。積雪期はコースタイムの1.5倍の時間がかかることを見込んで計画を立て、遅くとも14時までには下山を開始できるようなスケジュールが望ましいです。
天候判断と安全なパーティ編成
登山の1週間前から天気予報をチェックし始め、3日前、前日、当日朝と段階的に確認します。風速が強い日(山頂付近で15メートル毎秒以上)や降雪予報がある日は計画を延期や中止することも重要な判断です。天候が悪化しそうな場合は山頂にこだわらず、途中で引き返す勇気を持ちましょう。
冬山登山は3人以上のパーティで行動するのが理想的です。万が一のトラブルの際に一人が負傷者のそばに残り、もう一人が救助を呼びに行くことができるからです。登山届の提出と家族への連絡も忘れずに行いましょう。
冬の樽前山の実際の山行から学ぶポイント
実際に冬の樽前山に登った登山者の体験記録からは多くの学びを得ることができます。
雪の状態は日によって大きく異なります。雪がしっかりと締まって固い日はスノーシューの刃がよく効いて登りやすいですが、新雪が大量に積もった直後は深く沈み込み体力の消耗が激しくなります。表面がクラスト(凍結した薄い層)で覆われている場合は踏み抜きが起こることもあるため注意が必要です。
風の強さは登山の可否を左右する大きな要因です。風速10メートル程度であれば行動可能ですが、恐怖を感じないギリギリの強さという報告があります。7合目付近で強風に見舞われヒュッテの横で1時間ほど風が弱まるのを待ってから再出発したという記録もあり、風が予想以上に強い場合は無理をせずに待機や撤退の判断をすることが大切です。
夏道の杭(ルートを示す目印)が雪の上に顔を出していることもありますが、積雪量が多い時期にはこれらが完全に埋まってしまうこともあります。そのためGPSやコンパスによるルートファインディング能力は必須です。YAMAPやヤマレコなどの登山アプリにあらかじめルートを入れておくと位置確認が容易になります。
冬の日の出前や日の出直後に登り始め山頂付近でご来光を迎えるという楽しみ方もあります。雲海から太平洋に昇る朝日を山頂で見る体験は格別ですが、暗い時間帯の行動にはヘッドランプが必須でありルートファインディングもより慎重に行う必要があります。
樽前山は何度登っても異なる表情を見せてくれる山です。同じルートでも雪の量、風の強さ、気温、天候によってまったく違う体験になります。そのため一度の山行で得た経験を過信せず、毎回の山行ごとに新鮮な気持ちで自然と向き合う謙虚さが大切です。
まとめ:準備を重ねて冬の樽前山で一生の思い出を
樽前山の冬登山は、北海道ならではの雄大な雪景色と活火山ならではの迫力ある地形を楽しめる魅力あふれる登山です。特に積雪期限定の北尾根ルートをスノーシューで歩く体験は、冬にしかできない特別なものです。
しかし冬山登山には夏山にはない多くのリスクが伴います。適切な装備の準備、段階的な経験の積み重ね、天候判断の徹底、そして経験者との同行が安全に楽しむための鍵となります。初心者の方はまずは夏の樽前山を経験し、初心者向けの冬山で経験を積んでから段階的にステップアップしていくことをおすすめします。焦らず着実に準備を重ねて、いつか冬の樽前山山頂から眺める支笏湖ブルーと白銀の世界を自分の目で楽しんでください。
冬の樽前山はしっかりと準備をして挑めば、一生忘れられない素晴らしい体験を与えてくれる山です。安全第一で、北海道の冬山を存分に楽しみましょう。








