トムラウシ山の短縮コース日帰り登山とは、トムラウシ温泉からさらに林道を約7.5km奥に進んだ短縮路登山口を起点に、標高2,141mの山頂を一日で往復する登山ルートです。往復距離は約16.5〜17km、コースタイムは10時間50分前後と、名前に「短縮」とついていながら決して楽な行程ではありません。それでも日帰りでトムラウシ山を目指す登山者のほぼ全員がこの短縮コースを選択しています。
北海道大雪山国立公園の南端にそびえるトムラウシ山は、「大雪山の奥座敷」と呼ばれる日本百名山の名峰です。手つかずの高山植物のお花畑と神秘的な湖沼群が広がる絶景の山として、全国の登山者に深く愛されています。本記事では、短縮コースを利用した日帰り登山に必要なアクセス方法、コースタイム、見どころ、装備、安全対策まで、計画段階で知っておきたい情報を網羅的に解説します。これから挑戦を考えている方が、自分の体力と経験で挑めるかを判断できるよう、現実的な視点でまとめています。

トムラウシ山とは|大雪山系を代表する花と湖沼の名峰
トムラウシ山とは、北海道上川郡新得町と美瑛町の境界に位置する標高2,141mの独立峰のような山岳です。大雪山国立公園のほぼ中央に位置し、深田久弥の『日本百名山』にも選定されています。山名の「トムラウシ」はアイヌ語に由来し、「花の多いところ」あるいは「水垢の多いところ」を意味するといわれています。その名の通り、夏には色とりどりの高山植物が咲き乱れ、登山者を息をのむ景観で迎えてくれます。
山頂直下の北側には北沼、南西部には南沼があり、沼の周囲にはコマクサ、エゾコザクラ、イワヒゲなど希少な高山植物が群生しています。また山中には「トムラウシ公園」「日本庭園」と呼ばれる高山植物帯が広がり、チングルマやエゾノツガザクラが一面に花を咲かせる夏の景色は「天上の楽園」とも形容されます。
大雪山系の他の山々である旭岳や十勝岳と比較すると、トムラウシ山には山小屋がなく、登山道も自然の地形をそのまま歩く箇所が多く残されています。整備された本州の百名山とは一線を画す、原始的な山岳体験ができる点が大きな特徴です。
短縮コースとは|トムラウシ山の主要登山ルートを比較
短縮コースとは、トムラウシ温泉「東大雪荘」付近からさらに林道を約7.5km進んだ短縮路登山口から登り始めるルートのことです。トムラウシ山の主要な登山ルートは、大きく次の2つに分かれます。
| ルート名 | 起点 | 往復距離 | コースタイム目安 | 主な利用者層 |
|---|---|---|---|---|
| トムラウシ温泉コース | 東大雪荘付近 | 約20km | 約16時間 | テント泊・避難小屋泊の縦走者 |
| 短縮コース(短縮路) | 短縮路登山口 | 約16.5〜17km | 約10時間50分 | 日帰り登山者 |
温泉コースは、ヒサゴ沼避難小屋やテント泊を前提とした長大な縦走向けのルートです。一方の短縮コースは、温泉コースから約3km短縮されることから「短縮」と名付けられました。日帰りでトムラウシ山を目指す場合、現実的な選択肢はこの短縮コース一択といえます。
ただし「短縮」という名前であっても、コースタイムは10時間以上に及ぶため、相当な体力と登山技術が必要な健脚者向けのルートとして位置づけられています。日没までに余裕を持って下山するためには、深夜帯の早朝出発が前提です。
トムラウシ山短縮コースへのアクセス方法
車でのアクセスと林道の注意点
トムラウシ山短縮コースへの車でのアクセスは、道東自動車道の十勝清水ICから国道274号を経由し、新得町方面へ向かうのが基本ルートです。その後、道道718号線を走りトムラウシ温泉(東大雪荘)を目指します。帯広市内からは約95km、所要時間は約2時間が目安となります。
東大雪荘の手前約5kmから道は未舗装路に変わり、温泉施設の手前で短縮路登山口方向への分岐を進みます。この林道区間は約7.5km、走行時間にして約25分です。凸凹が激しく道幅も狭いため、低速で慎重な運転が求められます。
雪解けの遅い年は、5月を過ぎても林道に雪が残ることがあります。執筆基準日である2026年5月8日時点でも、林道の開通状況には年ごとのばらつきがあるため、新得町観光協会や大雪山国立公園管理事務所に最新の道路状況を必ず問い合わせてから出発してください。
公共交通機関でのアクセス
公共交通機関でトムラウシ山にアクセスするのは非常に難しく、基本的に車(レンタカー含む)が必須となります。最寄り駅はJR新得駅ですが、そこからトムラウシ温泉までは送迎サービスを利用するか、タクシーを手配することになります。東大雪荘が宿泊者向けに送迎を提供する場合があるため、温泉宿に前泊するプランと組み合わせるのも有効な選択肢です。
駐車場情報とトイレ
短縮路登山口には無料の駐車場があり、収容台数は約80台と比較的広めです。バイオトイレが設置されているため、登山開始前に用を済ませることができます。
人気の山であるため、夏山シーズンのピーク時、特にお盆前後は早朝から満車となる場合もあります。日帰り登山では午前3時から5時頃の出発が一般的なため、前日のうちに駐車場に到着して仮眠するスタイルをとる登山者も少なくありません。
トムラウシ山短縮コースの詳細|区間別コースタイムと見どころ
コースタイム早見表
短縮コースの標準的な登りコースタイムは次の通りです。下りは登りの約0.7倍を目安とし、休憩を含めた往復で10時間50分前後を見込みます。
| 区間 | コースタイム |
|---|---|
| 短縮路登山口 → カムイ天上 | 約110分 |
| カムイ天上 → コマドリ沢出合 | 約60分 |
| コマドリ沢出合 → 前トム平 | 約120分 |
| 前トム平 → トムラウシ公園 | 約30分 |
| トムラウシ公園 → 山頂 | 約60分 |
| 登り合計 | 約6時間(380分) |
短縮路登山口(標高約1,280m)
短縮路登山口は標高約1,280mに位置し、駐車場のすぐそばに登山道の入口があります。登り始めはなだらかな樹林帯を歩く穏やかな区間です。登山口から約20分歩くと、トムラウシ温泉からのルートと合流します。
カムイ天上(標高約1,440m)
カムイ天上は、樹林帯を抜けた稜線上の一角にあるポイントです。「カムイ」はアイヌ語で神を意味します。ここからは周囲の展望が開け、携帯電話の電波が通じる場所としても知られています。装備の最終確認と水分補給に適した休憩ポイントです。登山口から約1時間50分が目安となります。
カムイ天上を過ぎると、いったん平坦な稜線を歩いた後、コマドリ沢に向かって大きく下る区間に入ります。この下りは帰りに登り返しがきつくなるため、下る時から体力消耗を念頭に置いた歩き方が重要です。
コマドリ沢出合(標高約1,390m)
コマドリ沢出合は、トムラウシ山の中で最もルート迷いや事故が多い箇所の一つとして知られています。雪解けのシーズンである6月から7月初旬には雪渓が登山道を覆っている場合があり、踏み跡が不明瞭になりやすい場所です。状況によってはチェーンスパイクやアイゼンの装着が必要となります。
沢を渡る箇所もあり、増水時には渡渉が困難になることがあります。沢の水は澄んで見えますが、エキノコックスという寄生虫の感染リスクがあるため、煮沸せずに飲むことは絶対に避けてください。
前トム平(標高約1,738m)
前トム平は、コマドリ沢からの急登をこなし樹林帯を抜けた先に広がる、高原状の台地です。ここで初めてトムラウシ山の山頂部や前トムラウシ山(1,799m)の姿を望めます。森林限界を超えるため、ここから先はほぼ全域が開けた稜線歩きとなります。
晴天時には雄大なパノラマが広がる一方、悪天候時には遮るものがなく強風と低温にさらされるため、防寒・防風対策が特に重要なポイントとなります。
トムラウシ公園(標高約1,760m)
トムラウシ公園は、前トム平から少し進んだ場所に広がる高山植物の楽園です。雪解けが進む7月下旬から8月にかけて、チングルマ、エゾノツガザクラ、ハクサンイチゲなどの花々が一面に咲き乱れます。沼や小池が点在し、花々と水面が織りなす景観はまさに「天上の庭園」と呼ぶにふさわしい光景です。
安全上の重要な目安として、「トムラウシ公園を午前11時、遅くとも正午までに通過できなければ引き返す」という判断基準が広く語られています。この時刻を過ぎると、日没までに下山できないリスクが高まるためです。
ロックガーデン
ロックガーデンは、太古の噴火活動によって噴出した溶岩が固まった岩場です。大小さまざまな溶岩岩が重なり合った独特の地形で、足場が不安定な箇所が連続します。岩の間には氷河期の生き残りといわれるナキウサギが生息しており、「キッキッ」という鳴き声に耳を澄ますと、岩陰に小さな姿を見つけられるかもしれません。
山頂直下|南沼・北沼
山頂に近づくと、南西部の南沼と北側の北沼という二つの沼が現れます。南沼の周囲はテント適地となっており、縦走者がテントを張る場所として知られています。沼の周辺にはコマクサ、エゾコザクラ、イワヒゲなど希少な高山植物が群生し、登山の疲れを忘れさせる景観が広がります。
トムラウシ山山頂(標高2,141m)
山頂からは360度の大パノラマが広がります。北には旭岳(2,291m)をはじめとする大雪山系の峰々、南には十勝岳連峰のオプタテシケ山、東には十勝平野の広大な眺めが楽しめます。条件が良ければ、はるか日高山脈まで見渡すことができます。長い道のりを歩いてきた登山者へのご褒美として、これ以上ない達成感と絶景が待っています。
トムラウシ山短縮コースの見どころ|花・湖沼・野生動物
チングルマの大群落
トムラウシ山の最大の見どころの一つが、チングルマの大群落です。チングルマはバラ科の多年草で、高山植物を代表する花として知られています。白い5枚の花びらが可憐な姿を見せ、トムラウシ公園では一面に広がる白い絨毯のような景観を作り出します。例年の見頃は7月下旬から8月上旬です。
多様な高山植物
チングルマのほかにも、紅紫色の小花を咲かせるエゾノツガザクラ、白い花を咲かせるハクサンイチゲ、岩場に生えるコマクサ、エゾコザクラ、イワヒゲなど、多種多様な高山植物が登山道沿いに次々と姿を現します。コマクサは「高山植物の女王」とも呼ばれる希少な花で、礫地に静かに咲く姿が印象的です。植物図鑑を持参して観察しながら歩くと、登山の楽しみが何倍にも広がります。
湖沼群が織りなす景観
トムラウシ公園から山頂にかけて、大小さまざまな沼や池塘が点在しています。澄んだ空の色を映す水面と高山植物の競演は、日本の山岳とは思えないほどの非日常感を演出します。
氷河期の生き残り・ナキウサギ
ロックガーデンの岩場には、ナキウサギが生息しています。耳が丸く尻尾がほとんどない小さな哺乳類で、「キッキッ」という独特の鳴き声で存在を知らせます。動きが素早く姿を見つけるのは難しいものの、鳴き声が聞こえたら岩陰をじっくり観察してみる価値があります。
大雪山系を一望する大パノラマ
前トム平より先の稜線では、森林限界を超えて視界が大きく開けます。大雪山系の山々が連なる雄大な景色は、長い道のりを歩いた疲れを一瞬で忘れさせるほどの迫力です。快晴の日にはとりわけ感動的な眺望が広がります。
トムラウシ山の登山適期はいつ?シーズン別の特徴
トムラウシ山の登山適期は、例年7月下旬から9月上旬です。この期間が最も天候が安定し、高山植物も最盛期を迎えます。執筆基準日である2026年5月8日時点ではまだシーズン前であり、林道や登山道に雪が残っている可能性が高いため、5月から6月の入山は十分な情報収集が不可欠です。
6月下旬から7月上旬は、コマドリ沢付近に雪渓が残っているケースが多く、アイゼンやチェーンスパイクが必要となる場合があります。林道もまだ雪が残ることがあり、車両の通行可否を含めた事前確認が欠かせません。
9月に入ると高山植物の開花は終盤を迎えますが、草紅葉が始まり、また異なる美しさを見せてくれます。ただし9月以降は気温の低下が急激で、10月には山頂部で積雪が始まります。「天気が悪い日には絶対に登らない」「天候が急変した場合は速やかに引き返す」という判断基準は、特にこの山では生命に関わる重要な原則です。
トムラウシ山日帰り登山に必要な装備リスト
レインウェア(雨具)
トムラウシ山は気象変化が非常に激しく、快晴の朝でも昼頃には霧や雨に覆われることが頻繁にあります。上下セパレートで防水・防風性能の高いレインウェアは必携の装備です。使い捨てのカッパでは防風性能が不十分なため、登山用の本格的なレインウェアを用意してください。
防寒着
8月の真夏でも、山頂付近の最高気温は13℃程度で、強風が吹けば体感温度はさらに下がります。フリースやダウンジャケットなどの保温着を必ず持参してください。「真夏だから大丈夫」という油断は禁物です。
登山靴
岩場、泥道、雪渓など多様な地形を歩くため、ソールがしっかりしたハイカット(足首まで覆う)の登山靴が適しています。スニーカーでの入山は非常に危険で、捻挫や転倒のリスクが格段に高まります。
地図・コンパス・GPS
登山道の標識は本州の山と比べて少なく、悪天候時や雪渓上ではルートファインディングが困難になることがあります。紙の地図とコンパスを基本装備として携行し、YAMAPなどのGPSアプリと併用するのが安全です。
ヘッドライトと予備電池
日帰り登山であっても、予定より下山が遅れる可能性は常にあります。暗くなっても行動できるよう、予備の電池を含めたヘッドライトを必ず携行してください。
水・食料
山中に売店や自動販売機は一切ありません。水は登山口で十分に確保する必要があり、最低でも2リットル以上の携行が目安です。コマドリ沢などの水場はエキノコックス感染のリスクがあるため、煮沸消毒なしでの飲用は避けてください。行動食もエネルギー補給を考慮して多めに用意することをおすすめします。
熊対策グッズ
北海道の山岳地帯にはヒグマが多く生息しており、トムラウシ山周辺でも目撃情報があります。熊鈴は常時鳴らしながら行動し、熊スプレーを携行することを強くお勧めします。登山口近くや沢沿いは特にヒグマと遭遇しやすいエリアです。
2009年トムラウシ山遭難事故の教訓と安全対策
2009年7月16日、トムラウシ山で日本の夏山史上最悪規模の遭難事故が発生しました。ツアーガイド3名を含む計18名のパーティが悪天候に遭遇し、そのうち8名が低体温症により命を落とすという惨事でした。
この日のトムラウシ山頂付近は気温8〜10℃、風速20〜25mという台風並みの過酷な気象条件でした。パーティは標高1,600mのヒサゴ沼避難小屋を悪天候の中、午前5時半に出発しました。その後、強風と低体温症によって次々と動けなくなる登山者が出て、最終的に8名が亡くなる結果となりました。
この事故から学ぶべき教訓は数多くありますが、特に重要なポイントは次の四点に集約されます。
第一に、「天候が悪いときは無理して進まない」という判断の徹底です。この事故では、悪天候にもかかわらず行動を継続したことが致命的な結果を招きました。山での「引き返す勇気」は最も重要な技術の一つです。
第二に、「低体温症の恐ろしさを知る」ことです。風が強く気温が低い環境では、体温は急速に奪われます。体温が35℃以下になると低体温症となり意識障害が現れます。真夏であっても山頂付近での低体温症リスクは非常に高く、防風・保温対策は生命に直結する課題です。
第三に、「コースタイムを守り、無理な行動をしない」ことです。トムラウシ山の日帰り登山では、トムラウシ公園を午前11時までに通過できなければ引き返す、という判断基準が目安として広く語られています。疲労が蓄積した状態での悪天候遭遇は、最も危険な状況の一つです。
第四に、「山の天気は変わりやすいことを常に意識する」ことです。朝の天気がよくても昼過ぎには一変することが珍しくありません。天気予報を確認する際には、特に風速・気温・降水確率に注目することが重要です。
出発時間と登山計画の立て方
トムラウシ山日帰り登山では、遅くとも午前4時から5時には登山口を出発することが推奨されます。コースタイムが10時間以上と長いため、午前3時出発という登山者も珍しくありません。深夜帯の出発が前提となるため、ヘッドライトでの行動経験も求められます。
前日のうちにトムラウシ温泉「東大雪荘」に宿泊するプランは、体力的にも精神的にも余裕を持って登山に臨めるため理想的です。東大雪荘は温泉と食事が楽しめる宿泊施設で、登山前後の疲労回復に適した拠点となります。
登山計画書(登山届)は必ず提出してください。登山ポストは登山口に設置されています。新得町観光協会や警察署への届け出も推奨されており、単独登山の場合や初めて挑戦する場合は、信頼できる人に行動計画を伝えてから出発することが必須です。
登山当日のタイムライン例
参考までに、短縮コース日帰り登山の標準的なタイムラインを示します。コースタイムの約0.8倍で計算した目安です。
| 時刻 | 行動内容 |
|---|---|
| 午前3時00分 | 登山口出発 |
| 午前5時00分 | カムイ天上通過(日の出ごろ) |
| 午前6時00分 | コマドリ沢出合 |
| 午前8時30分 | 前トム平 |
| 午前9時00分 | トムラウシ公園(引き返し判断ポイント) |
| 午前10時00分 | 山頂到着・休憩 |
| 午前11時00分 | 下山開始 |
| 午後1時30分 | トムラウシ公園(復路) |
| 午後2時30分 | 前トム平(復路) |
| 午後4時30分 | コマドリ沢出合(復路) |
| 午後6時00分 | 登山口帰着 |
体力や天候によって前後しますが、特に山頂でのゆとりと下山時間の余裕を十分に確保した計画立案が重要です。
トムラウシ山短縮コース日帰りに向いている方・向いていない方
トムラウシ山の短縮コース日帰り登山は、決して初心者向けの山ではありません。自分の経験と体力が十分かどうか、冷静に判断することが安全登山の第一歩です。
向いているのは、北海道や本州アルプスなどで長時間(8時間以上)の日帰り登山を複数回経験している方、ペース配分を考えながら長距離を歩く体力と経験がある方、地図読みができるかGPSアプリを使いこなせる方、悪天候時に躊躇なく引き返せる判断力を備えた方です。
逆に注意が必要なのは、登山を始めてまだ1年未満の方、コースタイム8時間以上の日帰り山行の経験がない方、北海道の山の厳しさ(変わりやすい天候、道標の少なさ、ヒグマリスク)を知らない方、雨具や防寒具を持っていないかあるいは低品質のものしか持っていない方です。
経験や体力が不十分と感じる場合は、まず北海道内のより短いコースの山、たとえば旭岳日帰りや黒岳日帰りなどで経験を積んでから挑戦することをお勧めします。段階的なステップアップが、トムラウシ山を安全に楽しむための近道です。
前泊におすすめ|トムラウシ温泉 東大雪荘
日帰り登山を安全に楽しむためには、前日のうちにトムラウシ温泉に宿泊して体を休めることが理想的です。トムラウシ温泉の唯一の宿泊施設である「国民宿舎 東大雪荘(ひがしたいせつそう)」は、登山口に最も近い宿として長年登山者に利用されてきました。
施設内には約80℃の高温泉をかけ流しで提供する温泉があり、露天風呂やミストサウナも完備されています。泉質は弱アルカリ性で、登山前のリラックスにも、登山後の入浴にも適した宿泊拠点です。
登山者向けのサービスも充実しており、翌朝早く出発する登山客向けに朝食をおにぎりに変更してもらうことができます(前日夕方までに申請)。レストラン横には早朝から温かいお茶が用意されており、マイボトルに入れて持参することも可能です。長時間の登山を控える身には非常にありがたい配慮です。
アクセスは、新得駅から道道718号線を経由して車で約60分。新千歳空港からは約3時間30分、旭川空港からは約3時間の距離です。ホテル手前5kmから未舗装路となるため、運転には注意してください。
テント泊・縦走へのステップアップ
短縮コースでの日帰り登山に成功したら、次のステップとしてテント泊縦走も視野に入れることができます。トムラウシ山は大雪山縦走の重要な通過点でもあります。
山頂直下の南沼には「南沼キャンプ指定地」があり、テント泊が可能です。沼のほとりに設営されたテントから望む朝焼けや星空は、日帰り登山では味わえない格別の体験です。ただし、南沼キャンプ指定地では携帯トイレブースの利用が基本となるため、環境保護のために携帯トイレを必ず持参してください。
より長い縦走を楽しみたい場合は、旭岳からトムラウシ山への大雪山大縦走(2泊3日または3泊4日)があります。このルートは日本の山岳縦走の中でも最高峰の一つに数えられ、手つかずの大自然の中を何日もかけて歩く経験は、登山の醍醐味を存分に味わわせてくれます。途中にはヒサゴ沼避難小屋もあり、避難小屋泊での縦走も可能です。日帰り以上の経験・体力・装備が必要となるため、まずは日帰り登山でトムラウシ山に慣れてから計画することをお勧めします。
トムラウシ山の登山情報を集める方法
登山前には必ず最新の登山情報を収集することが安全登山の前提条件です。
新得町観光協会は、林道の状況、山の状況、最新の登山情報を発信する重要な情報源です。特に春から初夏にかけての林道開通情報は、計画立案の鍵を握ります。公式ウェブサイトでは毎年シーズンごとに登山情報が更新されています。
大雪山国立公園連絡協議会のウェブサイトでも、各登山道の整備状況や注意情報が随時更新されています。
YAMAPやヤマレコといった登山記録アプリには、実際に登山した方々のリアルタイムに近い記録が多数掲載されています。コースの現状を把握するうえで非常に役立ち、道迷いしやすいポイントや雪渓の状況など、生きた情報が集まる場所です。
天気予報については、一般の天気予報に加えて「てんきとくらす」などの山岳向け天気予報サービスを活用することをお勧めします。風速や気温の予測も確認できるため、悪天候が予想される場合の判断材料として重宝します。
登山届は登山口の登山ポストに投函するだけでなく、コンパス(COMPASS)というウェブサービスや警察署への電子申請も利用できます。万が一の際、救助者が迅速に動けるよう、必ず提出してください。
トムラウシ山短縮コース日帰りについてよくある疑問
短縮コースは初心者でも登れますか、という疑問をよく耳にします。結論として、トムラウシ山の短縮コース日帰り登山は初心者向けではありません。コースタイムが10時間以上に及び、ルートファインディングや天候判断のスキルも求められるため、長時間山行の経験を十分に積んだうえでの挑戦が前提となります。
何時に出発すべきかという質問も多く寄せられます。日没までに余裕を持って下山するためには、午前3時から5時頃の出発が一般的です。トムラウシ公園を午前11時までに通過できないと判断した場合は、引き返す決断が必要です。
水場は途中にあるかという疑問については、コマドリ沢などに沢水はあるものの、エキノコックス感染リスクがあるため煮沸せずに飲むことはできません。登山口で最低2リットル以上を確保し、行動中も計画的に消費する必要があります。
携帯電話は通じるかという点について、カムイ天上付近など一部のポイントでは電波が通じる場所があります。ただし山域全体で電波が安定するわけではないため、緊急連絡手段として過信はできません。
まとめ|トムラウシ山短縮コース日帰り登山の魅力と心構え
トムラウシ山の短縮コース日帰り登山は、北海道最高峰の自然美を凝縮して体験できる素晴らしいルートです。「短縮コース」という名前ではあっても、往復約17km・コースタイム10時間以上という長大な行程であることを、計画段階で改めて認識しておく必要があります。
しかし、その長い道のりの末に出会えるトムラウシ公園の花畑、山頂から望む大パノラマ、神秘的な沼と高山植物が織りなす景観は、間違いなく日本の山岳の中でも最高クラスの体験です。十分な準備と正確な判断力をもって臨めば、生涯の思い出に残る登山となるでしょう。
アクセスに時間がかかり、天候も厳しく、コースも長い。それでもこの山に多くの登山者が魅了されるのは、他の山では味わえない原始の自然がそこに息づいているからに他なりません。チングルマの白い花々が一面に咲き誇るトムラウシ公園で立ち止まったとき、山頂から大雪山系の全貌を見渡したとき、きっとこの山を選んでよかったと感じることができるはずです。
トムラウシ山は「北海道らしい登山」を最も純粋な形で体験できる山です。整備されすぎた観光地化された山ではなく、自然の中に登山道が静かに延びているだけ。だからこそ、自分の足で一歩一歩踏みしめて歩く達成感が格別なものとなります。
登山を計画する際は、必ず最新の登山情報(林道状況、天気予報、山の状況)を収集し、体力・技術ともに十分な準備を整えてから挑んでください。2009年の遭難事故の教訓を忘れず、安全第一で北海道の秘境・トムラウシ山を楽しんでください。
「山は逃げない」という登山者の言葉があります。体調が優れない日、天気が悪い日には迷わず引き返す、あるいは日程を変更する勇気こそが、長く山を楽しみ続けるための最大の知恵です。トムラウシ山はいつでもそこに待っていてくれます。北海道の大自然に身を置く贅沢な時間を、ぜひ安全に、思いっきり楽しんでください。素晴らしい山旅となりますように。








