由布岳のミヤマキリシマは、西峰と東峰の双耳峰を5月下旬から6月中旬にかけてピンク色に染め上げる九州特有のツツジです。標高1583メートルの西峰と1580メートルの東峰、その間の鞍部「マタエ」を中心に群落が広がり、青空と由布院盆地の緑、そして山肌のピンクが織りなすコントラストは九州屈指の絶景として知られています。本記事では、豊後富士と呼ばれる由布岳でミヤマキリシマを楽しむための見頃情報、登山ルートの違い、西峰の鎖場「障子戸」の難所、東峰からの360度展望、お鉢巡りで二つの頂を制する魅力までを、登山経験者・初心者の双方に向けて詳しく解説します。下山後の由布院温泉と組み合わせた贅沢なプランや、初夏に咲き誇るピンクの絨毯を安全に味わうための準備のポイントもあわせて紹介します。これから訪れる2026年の開花シーズンを最大限に楽しむための実用的な情報を、ひとつの記事に凝縮しました。

由布岳とは──豊後富士と呼ばれる双耳峰の活火山
由布岳とは、大分県由布市に位置する標高1583メートルの活火山で、整った円錐形の山容から「豊後富士(ぶんごふじ)」と呼ばれる九州を代表する名峰です。やまなみハイウェイから望む端正なシルエットは由布院盆地のシンボルであり、地元の人々から長く愛されてきました。日本二百名山にも選ばれており、深田久弥が日本百名山に選ばなかったことを後悔したと伝わるほど、登山愛好家の間では高い評価を受けている山です。
由布岳の最大の特徴は、東峰と西峰という二つの頂を持つ双耳峰であることです。遠くから眺めると、左右に二つのこぶが並ぶ独特のシルエットが浮かび上がり、富士のような単独峰とは異なる個性を放ちます。最高峰は西峰の1583メートルで、東峰はわずかに低い1580メートル。二つの峰の間には「マタエ」と呼ばれる鞍部があり、ここが東峰・西峰それぞれへの分岐点として機能しています。
由布岳は古代から信仰の対象として崇められてきた山でもあります。『古事記』や『豊後国風土記』にもその名が記されており、神が宿る山として古来より数多くの伝説や物語が残されてきました。双耳の岩峰を東西に突き上げるように屹立する姿は、古代の人々の目にも神聖なものとして映ったことでしょう。現在も地域の精神的な支柱であり、麓に広がる由布院温泉の象徴的な存在として観光客にも広く親しまれています。
地質的には、由布岳はトロイデ型の鐘状火山に分類されます。火山体は主火山体(基底溶岩)、複数の溶岩ドーム、そして山頂溶岩から構成され、周囲には約7300年前のアカホヤ火山灰よりも新しい小規模な火砕流堆積物が分布しています。現在も気象庁の常時観測対象となっている活火山であり、登山前には最新の火山活動情報を確認することが推奨されます。
ミヤマキリシマとは──九州の火山にだけ咲く高山植物
ミヤマキリシマとは、ツツジ科の常緑低木で、九州の火山地帯にのみ自生する高山植物です。標高800メートルから1500メートルの、火山活動が終息した火山地帯で多く見られ、火山性ガスや火山特有の土壌にも耐える強さを持っています。
厳しい高山環境に適応するため、樹高はおよそ50センチメートルから1メートル程度と低く、地面を這うように山肌を覆います。一株に数多くの花をつけるため、少し離れた高所から俯瞰すると、山面全体がピンク色の絨毯を敷き詰めたような絶景が広がります。この光景は多くの登山者を魅了し、毎年シーズンになると全国から人々が足を運びます。
ミヤマキリシマの名付け親は、明治・大正時代の植物学者・牧野富太郎です。1909年(明治42年)に霧島連山を訪れた際に発見し、「深山霧島(ミヤマキリシマ)」と命名しました。「ミヤマ」は深山(高山)を意味し、「キリシマ」はこの花が多く自生する霧島山にちなんでいます。
この花の美しさは歴史的にも記録されています。幕末の1866年(慶応2年)、坂本龍馬が妻のおりょうと新婚旅行で霧島を訪れた際、姉に宛てた手紙に「きり島つゝじが一面にはへて実つくり立し如くきれいなり」と書き残しました。龍馬が筆を走らせるほど心を動かしたミヤマキリシマは、その美しさを今もなお変わらず伝え続けています。
ミヤマキリシマが自生するのは九州の火山とその周辺の高原に限られており、阿蘇山、くじゅう連山、霧島連山をはじめ、雲仙岳や由布岳といった観光地として名高い山々にも咲き誇ります。九州の山々を象徴する花として、その価値は非常に高いものがあります。
由布岳のミヤマキリシマの見頃はいつか
由布岳のミヤマキリシマの見頃は、一般的に5月下旬から6月中旬にかけてです。標高によって開花のタイミングが少しずつずれるため、登山道を登るにつれて開花が進む様子を観察できるのも、由布岳ならではの楽しみ方といえます。
2025年の開花状況を振り返ると、4月の冷え込みが影響して例年より開花がやや遅めでした。しかし、その冷え込みが花芽を食べる虫の被害を抑える結果となり、開花後の花の状態がとても良かったため、「今年は当たり年だった」と話す登山者も多くいました。同時期のくじゅう連山では6月6日時点で平治岳が見頃を迎え、「ミヤマキリシマが全面に咲いてピンクの山になっていてすごくきれい」という声が多く聞かれました。
2026年5月9日現在の段階では、由布岳のミヤマキリシマはまだつぼみの状態のものが多く、本格的な開花はこれからです。例年通りであれば、5月下旬には山腹で咲き始め、6月上旬から中旬にかけて山頂付近で見頃を迎える見込みです。年によって1〜2週間ほど開花時期がずれるため、訪問前には大分県観光情報公式サイトや登山記録サイトで直近の開花状況を確認することが望ましいです。
由布岳では、ミヤマキリシマの群落はマタエ周辺の鞍部から東峰・西峰の斜面にかけて広く分布しています。山頂近くの岩場の合間にも鮮やかなピンクの花が咲き、厳しい環境のなかで健気に生きる高山植物の逞しさを感じさせます。ミヤマキリシマが咲き乱れる時期に登頂すると、青空、白い雲、由布院盆地の緑、そして山肌のピンクという四色のコントラストが、まさに絶景を演出します。
由布岳の登山ルートと正面登山口へのアクセス
由布岳には主に三つの登山口があります。最もポピュラーで利用者が多いのが「正面登山口」、ほかに「西登山口」と「東登山口(日向岳方面)」が存在します。初めて由布岳を登る場合は、正面登山口からのルートが整備されていてわかりやすく、おすすめできる選択肢です。
正面登山口は、やまなみハイウェイ(県道11号線)沿いに位置しています。九州横断自動車道の由布岳スマートICから約8キロメートルの距離にあり、駐車場は無料で約30台分が確保されています。トイレも完備されており、近くには有料駐車場(普通車500円)もあります。週末や開花シーズンには混雑するため、早めの到着が望ましいです。
公共交通機関でアクセスする場合は、JR由布院駅前バスセンターから亀の井バスの別府駅西口行きに乗り、「由布登山口」バス停で下車します。所要時間は約15分です。バスを利用すれば、駐車場の混雑を気にせず登山に集中できます。
正面登山口からのコースタイム(標準的な目安)は次の表の通りです。
| 区間 | 所要時間 |
|---|---|
| 正面登山口 → 合野越 | 約45〜60分 |
| 合野越 → マタエ | 約60〜80分 |
| マタエ → 西峰または東峰 | 約20〜30分 |
| 登り合計 | 約2時間30分〜3時間 |
| 下り | 約2時間 |
| 往復合計 | 約5時間〜5時間30分 |
このルートでは、飯盛ヶ城への立ち寄りも楽しめます。飯盛ヶ城は登山口から少し進んだ場所にある丘で、一面が草原の山頂からは由布岳を見上げる絶好のビューポイントとなっています。遠くの山並みや由布院盆地の景色も楽しめるため、時間に余裕があれば立ち寄る価値があります。
合野越からマタエへの道のり
合野越(あいのこし)は、正面登山口から登ってきた道と西登山口から来た道が合流するポイントです。広くてベンチも設置されており、一息つくのに最適な場所です。ここまでは比較的なだらかな草原状の道が続きます。
合野越を過ぎると、登山道は徐々に傾斜を増していきます。目の前に迫る由布岳の雄大な山容を眺めながら、ジグザグの登山道を着実に登る区間です。高度を上げるにつれて視界が開け、歩いてきた草原や由布院盆地の眺めが広がっていきます。
マタエに到着すると、目の前に東峰と西峰への分岐が現れます。「マタエ」とは「股越え」を意味する言葉で、二つの峰の間の鞍部に位置することが名の由来です。ここは由布岳登山の最大の分岐点であり、お鉢巡りのスタート地点でもあります。マタエからは東峰と西峰の両方が間近に見え、開花シーズンにはミヤマキリシマに囲まれた美しい光景を楽しめます。
西峰への鎖場と難所「障子戸」
マタエから西峰へ向かうルートには、由布岳最大の難所である鎖場が待ち受けています。西峰へ向かうとすぐに岩場が始まり、固定された鎖を使って登る急峻な箇所が連続します。
特に有名なのが「障子戸(しょうじど)」と呼ばれる岩壁のトラバースです。「カニのヨコバイ」とも称されるこの箇所は、カニが横に移動するように岩壁を斜めにトラバースしながら進む必要があります。途中で進行方向が変わるため、難易度は決して低くありません。岩に開けられた指先程度のわずかな足がかりを探しながら、鎖にしっかりとつかまって慎重に体を移動させなければならない難所です。高度感もあり、足を踏み外すと危険です。
登山中の注意点として、2022年5月には由布岳で滑落による死亡事故が発生しました。西峰の鎖場は決して侮れない難所であり、三点確保(両手・両足のうち常に三点を岩や鎖に固定した状態で移動する技術)を意識した慎重な行動が求められます。
西峰の鎖場が不安な初心者の方は、無理をせずに東峰のみを目指すルートを選ぶことも賢明な判断です。東峰への道は比較的危険箇所が少なく、マタエからのルートも明瞭で登りやすいとされています。
ただし、西峰の頂上に立ったときの達成感と眺望は格別です。苦労して登り切った後に広がる360度の大パノラマは、鎖場の苦労を忘れさせてくれます。西峰から望む由布院盆地や、遠くに連なる九重連山の山並みは、まさに絶景という言葉がふさわしい光景です。
東峰の魅力と360度の展望
東峰は西峰に比べて登りやすく、初心者でも比較的安心して目指せるピークです。マタエからの登りは岩場ではあるものの、西峰のような高度感のある鎖場はほとんどありません。
東峰の山頂からは、西峰とは異なる角度から由布院盆地を一望できます。東側には別府湾が広がり、天気の良い日には国東半島まで見渡せることもあります。南方向には九重連山が雄姿を見せ、傾山や祖母山、さらには耶馬渓の山地も遠望できます。周囲360度に広がるこの展望は、由布岳登山の最大の報酬のひとつです。
ミヤマキリシマの開花シーズンには、東峰周辺の岩場の隙間にも可憐なピンクの花が咲き乱れます。青空を背景に岩と花のコントラストを写真に収めようと、多くの登山者がカメラを向ける光景が見られる時期です。
東峰からマタエを見下ろすと、由布院盆地に向けて続く登山道と、その両側に広がる草原、そしてミヤマキリシマの群落が一望できます。高い視点から眺めるこの景色は格別で、「ここまで登ってきて良かった」と実感できる瞬間が訪れます。
お鉢巡りで西峰と東峰を縦走する醍醐味
由布岳の醍醐味のひとつが「お鉢巡り」です。マタエを起点に西峰と東峰を結ぶルートを縦走することで、二つの頂上を制することができます。距離は決して長くないものの、アップダウンが激しく岩場が連続するため、それなりの体力と技術が必要です。
お鉢巡りのルートは、マタエ → 西峰(鎖場を経由)→ お鉢の縁(稜線)→ 東峰 という流れが一般的です。西峰から東峰までの所要時間は約1時間とされています。稜線上からは由布院盆地と鶴見岳(1374メートル)を同時に眺めることができ、特に晴天時には息をのむような絶景が展開します。
お鉢巡りの稜線は狭く、両側が切れ落ちている箇所もあるため、足元に十分注意しながら、無理のないペースで進むことが大切です。初心者の方や体力に自信のない方は、お鉢巡りを行わずにマタエから東峰または西峰のみを往復するルートを選ぶことが推奨されます。
お鉢巡り中もミヤマキリシマの開花期には美しい花景色が続きます。稜線の岩場に咲くミヤマキリシマは特に印象的で、背景に広がる雄大な山並みとともに、記憶に残る山行を演出してくれます。
由布岳の三つの登山口と選び方
正面登山口以外にも、由布岳には西登山口と東登山口という二つのルートが存在します。登山者のレベルや目的に合わせてルートを選べるのが、由布岳の魅力のひとつです。
西登山口は正面登山口よりも利用者が少なく、静かな山歩きを楽しめる穴場的なルートです。勾配はゆるやかですが、樹林帯が長く続くのが特徴で、深い森のなかを歩く時間が多くなります。樹林帯を進んでいくとやがて急に視界が開けて見晴らしのよい場所に出る瞬間があり、このギャップが登山の醍醐味になっています。ただし、西登山口ルートは道標が少なくコースが分かりにくい箇所もあるため、地図やGPSアプリを活用して慎重に進むことが必要です。初心者には難易度が高めなので、正面登山口から登り、帰りに西登山口へ下りる縦走スタイルが人気です。
東登山口ルートは、三つの登山口のなかで山頂までの距離がもっとも短いルートです。しかし、登山道には岩が多く、勾配も急なため、体力的にはかなりきつい面があります。登山経験のある中級者以上向けのルートといえます。東登山口の近くには「日向岳(ひなただけ)」という低山があり、バス停から徒歩約15分のゲートを右に進むと、由布岳の山腹をトラバースしながら日向岳へ向かう自然散策路が始まります。アップダウンを繰り返しながら歩く独特のコース設定で、登山者の少ない静かな山旅を味わえます。
初めて由布岳を訪れる場合や初心者・中級者の方には、正面登山口ルートが強くおすすめできます。道標が整備されており登山者も多いため、道迷いのリスクが低く、もしものときに他の登山者の助けを借りやすい環境です。山頂への最も一般的なルートとして、長年にわたって多くの登山者に利用されてきた実績があります。慣れてきたら西登山口や東登山口も組み合わせた縦走に挑戦してみると、由布岳の多彩な表情を楽しめます。
由布岳の季節別の楽しみ方
由布岳は一年を通じて登山者に愛されている山です。季節ごとに異なる表情を見せてくれるため、何度訪れても新しい発見があります。
春(3月から4月)は、残雪が残る時期もありますが、山麓では草原が徐々に緑を取り戻し始めます。空気が澄んでいるため、山頂からの展望が特に美しい季節です。残雪期の登山には軽アイゼンなどの装備が必要になる場合があるため、事前に登山情報を確認してください。
初夏(5月下旬から6月中旬)は、ミヤマキリシマが見頃を迎える由布岳登山のベストシーズンです。山頂付近がピンクに彩られる光景は圧巻で、この時期を目指して全国から登山者が集まります。週末は特に混雑するため、平日の登山もおすすめです。
夏(7月から8月)は緑が豊かで、高山植物の宝庫となります。ミヤマキリシマの季節は過ぎますが、さまざまな高山植物の花を楽しめます。ただし、午後は雷雨になりやすいため、早朝に登山を始め、昼頃には下山できるようにスケジュールを組むことが重要です。
秋(9月から11月)の由布岳は紅葉が美しく、特に10月から11月にかけては山腹の木々が黄金色や赤に染まります。澄んだ秋空の下での登山は展望も抜群で、多くの登山者が紅葉を目当てに訪れます。
冬(12月から2月)の由布岳では「霧氷(むひょう)」を楽しめます。低温の霧や水蒸気が木の枝に凍り付いた霧氷は、まるで白銀の世界に迷い込んだような幻想的な景観を生み出します。ただし、積雪や凍結によって登山難易度が大幅に上がるため、アイゼンやストックなどの冬山装備が必須です。初心者は冬季登山を避けるか、経験豊富な登山者と同行することがすすめられます。
由布岳登山の準備と注意点
由布岳はアクセスが良く比較的人気の高い山ですが、軽視すると思わぬ危険に遭遇することがあります。特に西峰の鎖場はしっかりした技術と体力が要求されるため、適切な準備が欠かせません。
服装と装備の基本として、トレッキングシューズ(底のしっかりした登山靴)は必携です。スニーカーや運動靴では特に鎖場での安全が確保しにくいため、グリップのしっかりした登山靴を選びましょう。上下ともに速乾性素材のウェアを着用し、山頂付近は気温が下がるためレイヤリング(重ね着)で体温調節できるようにしてください。レインウェアも必ず携行する装備のひとつです。ボトムスは伸縮性のある素材が動きやすく、夏場でも虫よけのために長ズボンが推奨されます。ジーンズは濡れると重くなり動きも制限されるため、避けたほうが無難です。
持ち物として用意しておきたいのは、飲料水(1〜2リットル)と行動食(おにぎりやエネルギーバーなど)です。あわせて、ファーストエイドキットや緊急時対応のヘッドライト、地図とコンパス(GPSアプリでも代用可)を携行しましょう。さらに、レインウェアと防寒着(フリースまたは薄手のダウン)、下りや岩場のサポートに役立つトレッキングポールを加えると、より安心して登山に臨めます。
登山届は必ず提出しましょう。登山口には登山届のポストが設置されています。また、由布岳は活火山であるため、気象庁の火山活動情報を事前に確認することが重要です。噴火警戒レベルが引き上げられている場合は入山規制が行われることがあります。
午後から雷雨になることが多い夏場は特に、早めの行動を心がけ、遅くとも午後1時には下山を完了するようにスケジュールを組みましょう。天候が急変したら、迷わず引き返す判断が大切です。由布岳では近年でも滑落事故が発生しており、特に西峰の鎖場では慎重な行動が求められます。無理をしない、焦らない、引き返す勇気を持つこと──これが安全な登山の基本姿勢です。
由布岳で出会える他の植物たち
由布岳の魅力はミヤマキリシマだけではありません。山腹の草原や山頂付近には、さまざまな高山植物や山野草が四季折々に花を咲かせ、登山者の目を楽しませます。
ミヤマキリシマの開花が終わったあとの夏から秋にかけて、山麓の草原に多く見られるのが「ヒゴダイ」です。鮮やかな青紫色の球状の花をつけるヒゴダイは、大分県と熊本県にまたがる草原地帯を代表する植物のひとつです。近年は草原の減少によって個体数が減少しており、保護が必要な植物でもあります。
秋になると「マツムシソウ」の薄紫色の花が風に揺れる姿も見られます。マツムシソウはその名の通り、秋の虫・松虫(マツムシ)が鳴く頃に開花することから名付けられた山野草です。繊細な花びらが特徴的で、高原の草地に似合う凛とした美しさを湛えています。
初夏にはミヤマキリシマ、夏にはヒゴダイ、秋にはマツムシソウや紅葉。由布岳は訪れるたびに異なる顔を見せてくれる、植物観察の宝庫でもあります。野焼きによって維持されてきた草原が豊かな植物環境をつくり出しており、登山道沿いに広がる草原景観は、九州独自の山岳風景として高い価値を持っています。
由布院温泉と組み合わせる旅プラン
由布岳登山の大きな魅力のひとつが、麓に広がる由布院温泉との組み合わせです。由布院温泉は全国有数の温泉地であり、湧出量・湧出泉数ともに日本有数を誇ります。登山で疲れた体を温泉でゆっくりと癒やすという贅沢なプランを楽しめるのは、由布岳ならではの体験です。
由布院温泉街には個性豊かな温泉宿や日帰り温泉施設が数多くあり、おしゃれなカフェやギャラリー、お土産店も充実しています。金鱗湖(きんりんこ)など観光スポットも豊富で、登山の前後に散策するのも楽しみのひとつです。
由布院駅周辺では、由布岳を望む絶好のロケーションで食事を楽しめるレストランも多くあります。登山後の達成感とともに、地元大分の食材を使った料理を味わうひとときは格別です。
JR由布院駅から登山口へのアクセスにバスを利用すれば、車を持ち込まずに由布院観光と由布岳登山を一度に楽しむことができます。温泉旅行と山旅を兼ねた週末プランは、多くの旅行者に人気があります。
鶴見岳との関係と別府湾への展望
由布岳と並んで大分県を代表する名峰が、由布岳の東に隣接する鶴見岳(1374メートル)です。由布岳が「豊後富士」と呼ばれる孤高の存在であるのに対し、鶴見岳はロープウェイが整備された観光色の強い山として知られています。別府温泉の背後に聳える鶴見岳は、由布岳の山頂からもはっきりと姿を確認でき、対比することで両山の個性がよく理解できます。
由布岳の東峰からは、晴れた日に別府湾が遠く輝いて見えます。海と山が同時に視野に収まるこの展望は、九州ならではのダイナミックな景観です。山頂から別府の街並みと、その先に広がる別府湾の青い海を眺める体験は、登山者に忘れがたい感動を与えます。
由布岳という山の存在は、単なる登山目標にとどまらず、由布院盆地の温泉文化、豊後の歴史と信仰、九州の火山地形が生み出す独自の植物分布、そして観光地としての豊かな魅力が重なり合って成立しています。山麓から仰ぎ見る端正な山容、登山道から望む雄大な展望、そして山頂を彩るミヤマキリシマ──それらすべてが一体となって、由布岳という山の唯一無二の価値を形成しています。
ミヤマキリシマ登山のヒントと撮影のコツ
ミヤマキリシマ目当てに由布岳を訪れる場合、いくつかのポイントを押さえておくと、より充実した山行を楽しめます。
まず、最新の開花情報を確認することが最重要です。開花のタイミングは年によって1〜2週間程度ずれることがあり、行ってみたら花がすでに終わっていたということも起こり得ます。大分県観光情報公式サイトや登山記録サイトで直前情報をチェックしましょう。
次に、写真撮影を楽しむなら天気の良い日を選ぶことが理想です。青空を背景にしたミヤマキリシマのピンクは非常に映えますが、曇りの日でも独特の幻想的な雰囲気を撮影できます。早朝の光を受けた山頂付近のミヤマキリシマは特に美しく、日の出直後に山頂近くにいるために早めに登り始めるのもおすすめです。
ミヤマキリシマの群落が広がる斜面や岩場では、踏みつけによる植物への影響を避けるため、登山道を外れないことが大切です。高山植物は一度傷つくと回復に何年もかかることがあります。美しい自然を次世代に受け継ぐためにも、マナーを守った登山を心がけましょう。
由布岳のミヤマキリシマについてよくある疑問
由布岳のミヤマキリシマや西峰・東峰登山については、初めて訪れる人から多くの質問が寄せられます。代表的な疑問への回答をまとめました。
由布岳のミヤマキリシマの見頃はいつかという質問には、5月下旬から6月中旬が一般的な見頃と答えられます。標高によって開花時期がずれるため、山麓と山頂で1週間程度の差が生じることもあります。
西峰と東峰のどちらに登るべきかという疑問については、登山経験と体力に応じた選択が答えとなります。鎖場の経験が乏しい場合や高所が苦手な場合は東峰のみが安全な選択であり、達成感や絶景を最大化したい場合は西峰または両方を巡るお鉢巡りが選ばれます。
由布岳登山にかかる時間はどれくらいかという問いには、正面登山口からの往復で約5時間〜5時間30分が標準的な目安となります。お鉢巡りを加える場合は、さらに1時間程度の追加が必要です。
公共交通機関だけで登山できるかという疑問については、十分に可能と答えられます。JR由布院駅から亀の井バスで「由布登山口」バス停まで約15分、そこから登山を開始する流れで、車を持たない旅行者でも問題なくアクセスできます。
ミヤマキリシマと普通のツツジの違いは何かという疑問については、ミヤマキリシマが九州の火山にのみ自生する固有種で、樹高が低く花も小ぶりであるという特徴が挙げられます。普通のツツジが園芸植物として広く流通しているのに対し、ミヤマキリシマは野生の高山植物として、限られた火山地帯のみで群落をつくる存在です。
まとめ──由布岳の西峰・東峰でミヤマキリシマを満喫する
由布岳は、豊後富士という別名にふさわしい端正な山容を持ちながら、西峰の鎖場という適度なスリルと、東峰・西峰双方からの360度展望という大きな魅力を備えた、九州屈指の名山です。
初夏のミヤマキリシマの季節に訪れると、山頂付近を彩るピンクの絨毯と、眼下に広がる由布院盆地の緑、そして遠方に連なる九州の山々という、スケールの大きな景観が登山者を迎えてくれます。鎖場の緊張感を乗り越えた先に待ち受ける絶景は、汗をかいて登った者だけに与えられる特別なご褒美といえるでしょう。
お鉢巡りで西峰と東峰の両方を制覇し、見頃のミヤマキリシマを満喫する。下山後は由布院温泉でゆっくりと疲れを癒やす。こうした旅のプランを計画するだけでワクワクする、由布岳はそれだけ魅力的な山です。
ミヤマキリシマが満開の由布岳。その感動的な光景を一度でも目にした人は、必ずまたこの山を訪れたくなることでしょう。九州の高山に咲くピンクの花と豊後富士の雄姿が待つ由布岳への登山を、ぜひ計画してみてください。
九州を訪れたなら、くじゅう連山のミヤマキリシマとあわせて由布岳の花景色も訪ねることが強くおすすめされます。阿蘇山・霧島連山など九州各地の火山に咲くミヤマキリシマを巡る旅は、植物ファンだけでなく、登山が好きなすべての人にとって忘れられない体験となるはずです。由布岳はその旅の起点として、あるいは締めくくりとして、最高の舞台を提供してくれます。大分の山と温泉と花──この三つの宝が揃う由布岳へ、ぜひ足を運んでみてください。








