竜門岳登山ガイド、奈良・吉野に残る修験の道を歩く

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奈良県宇陀市と吉野郡吉野町にまたがる竜門岳は、標高904.1メートルの山で、日本三百名山のひとつに数えられています。山中には久米仙人が神通力を授かったという伝説の地、龍門寺跡が残り、吉野・大峯へと連なる修験道の気配を今に伝える一座です。奈良盆地と吉野を隔てる龍門山塊の主峰にあたり、登山口の吉野山口神社から山頂までは往復半日ほどで歩けるため、歴史散策を兼ねた登山先として親しまれています。この記事では、竜門岳の基本情報から久米仙人の伝説、修験道とのつながり、具体的な登山ルート、服装や持ち物の注意点まで、実際に山に入る前に知っておきたい情報をまとめました。

目次

竜門岳は日本三百名山に選ばれた近畿地方の一座

竜門岳は、奈良県宇陀市と吉野郡吉野町の境界にそびえる標高904.1メートルの山です。高見山の西側に連なる山域の中心的な存在として知られ、登山家・深田久弥が1964年に選定した『日本百名山』の100座に、日本山岳会が1978年にさらに200座を加えて選定した「日本三百名山」に名を連ねています。標高だけでなく山の歴史や個性、風格といった要素が選定の基準とされているため、竜門岳が歴史的・文化的な奥深さゆえに選ばれた一座であることがうかがえます。

奈良県内で日本三百名山に数えられる山は、竜門岳のほかに、東吉野村と三重県松阪市の境にそびえる高見山(標高1248.9メートル)があります。台高山脈の北端に位置する高見山は、冬季に見られる霧氷「海老の尻尾」の名所として知られ、1月から3月にかけて頂上のブナ林が氷の花で覆われる景観が人気を集めています。竜門岳とはやや距離があるものの、同じ奈良県南部の山域に連なる存在として、あわせて紹介されることも多い山です。

竜門岳は、紀の川(吉野川)水系の支流である津風呂川と、淀川水系の支流である宇陀川との分水嶺上に位置しています。この山に降った雨は、南に流れれば吉野川を経て紀伊水道へ、北に流れれば宇陀川から淀川を経て大阪湾へと注ぎます。近畿地方の水の流れを二分する分水嶺の一角を担っているという点でも、地理的に重要な位置を占める山です。

山頂には高皇産霊神(たかみむすびのかみ)を祀る小さな祠と、一等三角点「竜門岳」が設置されています。一等三角点は、全国の地形図を作成するための基準点網の中でも最高位に位置づけられる測量標です。日本では1882年ごろから参謀本部が本格的な三角測量を進め、1913年に全国の一等三角測量が完了しました。花崗岩などの堅固な石材で作られた標石が今も竜門岳の山頂に据えられていて、明治期以来の近代測量の歴史を物語っています。ただし山頂そのものはこぢんまりとした広場で、樹林に囲まれているため展望はあまり開けません。立派な山頂標識が立っているわけでもなく、静かで素朴な雰囲気の頂です。展望を楽しみたい場合は、山頂から400メートルほど進んだ送電鉄塔のあるポイントまで足を延ばすとよいでしょう。ここからは西方が大きく開け、二上山から金剛山、葛城山へと連なる「ダイヤモンドトレール」の山並みを一望できます。

竜門岳という名前は、山中に古くから伝わる龍門滝(竜門滝)や龍門寺の地名に由来すると考えられています。滝や寺の名は、中国の故事に由来する「龍門」の名を冠したものと推測され、日本各地に同名の滝が点在していることからも、龍門という言葉が霊験あらたかな地名として好んで用いられてきたことがうかがえます。

龍門寺跡は久米仙人が神通力を授かった修行の地

竜門岳の山中に残る龍門寺跡には、久米仙人(くめのせんにん)にまつわる伝説が伝わっています。

久米仙人は、敏達天皇の御代に葛城地方(現在の奈良県五條市周辺)で生まれたと伝えられる伝説上の仙人で、竜門岳で修行を積んで空を飛ぶ神通力を身につけたとされます。修行を終えた久米仙人は龍門寺の堂宇にとどまり、竜門岳と葛城山の間をたびたび飛び回っていたそうです。

ところが天平年間(729年から749年)のある日、いつものように空を飛んでいた久米仙人は、久米川で洗濯をしている若い女性の白い脛(すね)に見とれてしまい、神通力を失って地上に落下してしまいます。そのまま久米仙人はこの女性と結ばれ、ごく普通の人間として暮らすようになりました。

その後、聖武天皇の勅命により東大寺の大仏殿が造営される際、久米仙人は木材運搬の人足として工事に参加します。七日七晩の荒行の末に再び神通力を取り戻した久米仙人は、吉野山から工事現場まで木材を空中に浮かせて運んだと伝えられています。この功績により聖武天皇から三十町の土地を下賜され、久米寺(現在の橿原市久米町)を開いたとされます。仙人が女性に心を奪われて力を失い、荒行の末に取り戻すという展開は、修験の厳しさと人間らしさの両方を伝える逸話として語り継がれてきました。

久米仙人ゆかりの龍門寺には、後世『太平記』に登場する楠木正行の妻・弁ノ内侍(べんのないし)が世を忍んで暮らしたという伝承も残っています。かつては幽玄な雰囲気を誇った古刹だったといいますが、応仁の乱の戦火を機に廃寺となり、現在では遺構が名残をとどめるのみとなっています。登山道の途中でこの史跡に立ち寄れば、千年以上前の修行僧や仙人の気配を感じ取ることができるでしょう。

肝心の龍門滝は、龍門川にかかる三段構成の滝で、全体の落差は28メートルに及びます。一段一段が異なる表情を見せる滝で、樹林に囲まれた谷間にひっそりと流れ落ちる姿は、久米仙人が神通力を授かった修行の地としての雰囲気を今に伝えています。龍門寺跡と龍門滝は、吉野町がまとめる日本遺産「吉野」の構成要素としても紹介されており、自然景観にとどまらず地域の歴史と信仰を物語る資産として位置づけられています。

竜門岳は大峯奥駈道に連なる修験道の霊場

竜門岳が「修験の道」として語られる背景には、この山が古くから修験道と深い関わりを持ってきた歴史があります。

修験道は、飛鳥時代に活躍した役行者(役小角)を開祖とする山岳信仰の実践体系で、山中での厳しい修行を通じて悟りを得ることを目的とします。役行者は白鳳時代、吉野の金峯山(きんぷせん)で修行中に金剛蔵王権現を感得し、その姿を桜の木に刻んで山上ヶ岳(現在の大峯山寺)と吉野山(現在の金峯山寺蔵王堂)に祀ったと伝えられます。これが金峯山寺の草創とされ、以後、吉野・大峯一帯は修験道最大最高の霊場として発展しました。

吉野山を北の起点とし、熊野三山まで約170キロメートルにわたって続く「大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)」は、標高1000メートルから1900メートル級の険しい峰々を踏破する、修験道の中でも最も厳しい修行の道として知られます。山上ヶ岳、弥山、八経ヶ岳といった標高2000メートル近い山々の尾根を歩くこの参詣道のうち、八経ヶ岳は標高1915メートルを誇り、奈良県および近畿地方の最高峰として大峰山脈の主峰に位置づけられています。役行者が法華経八巻を埋納したという伝承から仏経ヶ岳とも呼ばれ、北に隣接する弥山(標高1895メートル)、南に連なる明星ヶ岳(標高1894メートル)とともに、大峯奥駈道の中でもひときわ標高の高い峰々を形成しています。この参詣道は、2004年7月に「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部としてユネスコ世界遺産に登録されました。この世界遺産は「吉野・大峯」「熊野三山」「高野山」という3つの霊場と、それらを結ぶ「大峯奥駈道」「熊野参詣道」「高野山町石道」という3つの参詣道から構成されています。

大峯奥駈道の道中には「靡(なびき)」と呼ばれる修行のための聖地が点在し、現在は75ヶ所が数えられていますが、かつては120ヶ所ほどあったとも伝えられます。行者たちはこれらの靡の一つひとつで般若心経や真言を唱え、岩場をよじ登ったり断崖に身を乗り出したりする荒行を重ねながら奥駈を進めていきます。この山岳修行は「山林抖擻(さんりんとそう)」とも呼ばれ、厳しい自然環境に身をさらすことで煩悩を払い、心身を鍛錬する修験道独自の実践法とされています。役行者自身も、熊野本宮から大峯山系を経て吉野に至るこの道のりで、生涯に33度の入峰修行を行ったと伝えられており、西日本随一の難路とも評される大峯奥駈道の厳しさを物語っています。

大峯奥駈道の中核をなす山上ヶ岳の大峯山寺は、役行者が金剛蔵王大権現を感得し祀った修験道の聖地で、元禄年間に再建された本堂は高山にある木造建築としては国内最大級です。毎年5月3日の戸開式(とびらきしき)から9月23日の戸閉式(とじめしき)までの143日間だけ本堂の扉が開かれ、参詣者や修験者で賑わいます。山上ヶ岳は1300年以上続くとされる女人禁制を守り続けている山としても知られ、山頂付近には「西の覗(にしののぞき)」と呼ばれる岩場から身を乗り出す行が今も行われています。なお、山上ヶ岳の隣に位置する稲村ヶ岳は女性信者のための修行の場として開かれ、「女人大峯」の別名で親しまれています。

修験道の法流は、大きく天台宗系の本山派と真言宗系の当山派に分かれます。本山派は熊野三山を拠点とし、京都の聖護院を総本山と仰ぐ流れで、当山派は醍醐寺の聖宝(しょうぼう)を開祖とし、醍醐寺三宝院を本寺とする流れです。当山派は大和国(現在の奈良県)周辺の真言系修験寺院を中心に形成され、1613年に徳川家康によって三宝院が法頭と認められたことで確立したとされます。吉野・大峯を舞台とする修験道は、複数の宗派の歴史が積み重なって今日の姿に至っており、竜門岳もその広大な信仰圏の一角に位置づけられる山です。

修行に臨む山伏(修験者)の装束には、一つひとつ意味が込められています。鈴懸(すずかけ)と呼ばれる衣に結袈裟(ゆいげさ)をかけ、頭には頭巾と斑蓋(ときん)、腰には貝の緒と引敷、足には脚絆を着け、八つ目の草鞋を履き、背中に笈(おい)と肩箱を背負います。腕には最多角の数珠を巻き、手には金剛杖や錫杖を持ち、法螺貝を吹きながら山中を進みます。結袈裟と鈴懸は密教でいう金剛界と胎蔵界を、頭巾は大日如来を表すとされ、数珠や法螺、錫杖、引敷、脚絆は修験者が成仏へと至る過程を、斑蓋や笈、肩箱、貝の緒は修験者が仏として再生することを象徴しているといいます。法螺貝の音は「獅子吼(ししく)」とも呼ばれ、百獣の王である獅子の声のごとくあらゆる動物を服従させる力を持つとされ、これは仏の説法そのものを表すと考えられています。金剛杖もまた修験者のシンボルで、その形は金剛界曼荼羅の種字「バン」の智体を表すとされます。竜門岳のような山々を歩くとき、こうした装束や道具に込められた意味を知っておくと、山と信仰の結びつきをより深く味わえるでしょう。

竜門岳自体は大峯奥駈道の主脈からは外れた位置にありますが、龍門寺と久米仙人の伝承が示すように、古代から山岳修行の場として認識されてきた山で、吉野という修験道の中心地に連なる山域の一角を占めています。山頂に高皇産霊神を祀る祠が置かれていることも、この山が古来より信仰の対象とされてきたことの証といえます。

吉野山口神社は竜門岳の登山口に鎮座する式内社

竜門岳の登山口となる山口集落には、吉野山口神社が鎮座しています。この神社は『延喜式』神名帳に記載される式内社に比定される古社で、竜門岳の霊峰を望む位置、山口集落の東北端、岳川左岸の低い丘陵上に建てられています。

祭神は大山祇命(おおやまつみのみこと)です。本来は山の神ですが、農耕に欠かせない水源の神、気象の神としても信仰を集めてきました。創祀年代は不詳ながら、『延喜式』神名帳では大社に列せられており、古くから有力な神社であったことがうかがえます。竜門岳の山の口に鎮座する神社として、境内の高鉾神社とともに「竜門大宮」と称され、竜門郷二十一ヶ村の総社として崇められてきました。祈雨の神としても霊験があるとされ、延喜式の祈雨神祭に祭られる八十五座のひとつにも数えられています。

竜門岳の山頂にはかつて高鉾神社が鎮座していたとも伝わっており、山そのものが神域として意識されてきたことがわかります。伝承によれば、正中二年(1325年)頃に地元の人々の手で山頂からタカホコヂと呼ばれる場所へ遷され、その後さらに現在の吉野山口神社の境内へと遷座したとされます。神社名の「高鉾」は、山頂での祭祀に矛(ほこ)を神籬(ひもろぎ、神を招く依代)として用いていたことに由来するとも考えられており、竜門岳そのものを神が宿る山として崇めてきた古代の山岳信仰の名残をとどめています。登山の前後にこの神社に立ち寄り、道中の安全を祈願してから山に入るのもよいでしょう。

竜門岳の登山ルートは吉野側と桜井側の2コースに分かれる

竜門岳への主な登山ルートは、南麓の吉野町側(津風呂湖・山口神社方面)から登るルートと、北麓の桜井市側から登るルートの二つに大別されます。体力や目的に応じてコースを選べるのが、この山の登りやすさにつながっています。

吉野側は山口神社を起点に往復2時間30分ほど

最も一般的なルートは、標高230メートル付近にある吉野山口神社を起点とし、龍門滝、龍門寺跡を経て山頂を目指すコースです。登山口は吉野山口神社の左脇から谷間に入った場所にあり、バイオトイレを備えた駐車場もあります。県道吉野室生寺針線から山口集落に入り、吉野山口神社を目指せば登山口駐車場に到着します。

このルートは山頂まで概ね2時間30分ほどで、往復でも半日程度で歩ける手頃なコースとして人気があります。歴史ある神社から出発し、龍門寺跡という史跡を経由して山頂に至る道のりは、修験や信仰の歴史を体感しながら歩ける魅力的なコースです。

津風呂湖へは近鉄大和上市駅からデマンドバスで約20分ほどでアクセスできます。マイカーの場合は、駐車場が整備されている登山口まで直接車で入ることが可能です。

桜井側は不動滝から大峠を経て約5時間

北側の桜井市側からは、不動滝(標高350メートル付近)を起点に、大峠(標高770メートル付近)や三津峠(標高740メートル付近)を経由して山頂に至るルートがあります。このコースは吉野側のルートに比べて距離が長く、大峠を経て不動滝バス停へ下山する場合、全体で5時間程度のハイキングコースとなります。

実際の山行記録では、大宇陀の宮奥集落から大峠トンネル出口付近に取り付き、大峠、三津峠を経由して山頂に至り、下山時は三津峠から直接スタート地点に戻る半周回コースを歩いた例も報告されています。歩行距離はおよそ5キロメートルから6キロメートル、獲得標高差は600メートルから700メートル程度とされ、日帰り登山として十分に歩き応えのあるコース設定です。

音羽三山との縦走は歩行21.1キロの健脚向けコース

体力に自信のある登山者には、音羽三山(音羽山・経ヶ塚山・熊ヶ岳)から竜門岳、さらに城ヶ峰、多武峰へと連なる縦走コースも人気です。音羽三山の観音寺駐車場を起点とするこの周回コースは、合計歩行時間8時間21分、距離21.1キロメートル、累積標高差は登り下りともに1900メートル近くに達する本格的なロングコースとして山行記録に残されています。吉野と桜井の山々を一日でつなぐこのルートは、竜門岳を含む一帯の山域の広がりを実感できる健脚向けのコースです。

音羽三山は、多武峰の談山神社の東に連なる、竜門岳と同じ山域に属する山々です。標高851.4メートルの音羽山は南北に長い大きな山体を持ち、山中には天平勝宝元年(749年)創建と伝わる音羽山観音寺(善法寺)があり、千数百年の歴史を刻んでいます。標高889メートルの経ヶ塚山は三角形の整った山容で知られ、多武峰の鬼門にあたることから経文を土中に埋めたという伝承が山名の由来になったとされます。標高904メートルの熊ヶ岳は音羽三山の最高峰で、山頂まで笹の茂る自然林が広がっています。これら音羽三山と竜門岳を結ぶ稜線歩きは、歴史ある寺社と山岳信仰の名残を随所に感じながら歩ける、奈良県南部らしい趣のあるコースです。

山頂の展望は400メートル先の鉄塔ポイントから広がる

竜門岳の山頂自体は樹林に囲まれ、これといった展望は得られません。しかし山頂から400メートルほど進んだ鉄塔付近まで足を延ばせば、西方の展望が大きく開けます。ここからは二上山、そして葛城山、金剛山へと続く「ダイヤモンドトレール」の山並みを一望できます。奈良盆地を挟んで大阪府境の山々を遠望できるこのポイントは、竜門岳登山のハイライトのひとつといってよいでしょう。

山頂の祠と一等三角点で登頂の達成感を味わい、鉄塔ポイントで展望を楽しむという二段構えの楽しみ方が、竜門岳登山の定番の流れになっています。

竜門岳は標高900メートルの低山で四季を通じて登りやすい

竜門岳は標高900メートルほどの低山であるため、四季を通じて登りやすい山として親しまれています。新緑の季節には登山道沿いの木々が瑞々しい緑に包まれ、龍門滝周辺の水音とともに清々しい山歩きが楽しめます。夏場は樹林帯の中を歩く時間が長いため直射日光を避けやすく、津風呂湖の水辺の風景とあわせて涼を感じられるルートでもあります。

紅葉の季節には、龍門寺跡周辺や登山道沿いの広葉樹が色づき、歴史の面影が残る古刹跡と紅葉の組み合わせが趣深い風景をつくり出します。奈良県内の低山らしく、山麓の集落や神社の周辺も含めて、里山の秋の風情を楽しめる山域です。冬場は積雪する日もあるため、防寒対策と滑り止め対策をしっかり行った上で入山することが望ましいといえます。

竜門岳登山の服装と持ち物の注意点は谷筋の急斜面対策

竜門岳は標高こそ1000メートルに満たない低山ですが、登山道には谷筋や急な斜面、峠道などが含まれており、一般的な登山装備での入山が基本となります。

服装については、登山靴(トレッキングシューズ)を着用し、足首をしっかり保護できるものを選びたいところです。天候急変に備えてレインウェアも必携です。ザックは日帰り登山であれば25リットル程度のサイズが扱いやすく、着替えのアウターウェアなども無理なく収納できます。

服装の基本はレイヤリング(重ね着)で、汗を素早く吸収・発散するベースレイヤー、体温を保持するミドルレイヤー、風雨を防ぐアウターレイヤーを状況に応じて着脱できるようにしておくとよいでしょう。特に秋から冬にかけては朝晩の寒暖差や稜線での風の影響が大きくなるため、体温調整がしやすい装備を心がけたいところです。

持ち物としては、地図やGPSアプリ、飲料水、行動食、雨具、防寒着、ヘッドライト、救急用品などの基本装備に加え、龍門寺跡など史跡を巡る場合は事前に簡単な資料を用意しておくと、歴史的背景を理解しながら歩けます。

竜門岳は登山者の多いメジャーな百名山などと比べると、道標や登山道の整備状況がやや簡素な区間もあるとされています。特に桜井側の大峠・三津峠を経由するロングコースでは、分岐や道の不明瞭な箇所に注意しながら、事前に登山地図アプリなどでルートを確認しておくことが望ましいでしょう。単独行の場合は特に、下山時刻に余裕を持った計画を立て、日没前に下山を終えられるよう時間配分を意識したいものです。

近年の登山記録では、竜門岳周辺での熊の目撃情報も報告されています。奈良県南部の山域では野生動物の生息が確認されており、熊鈴を携行するなど、単独行・グループ問わず基本的な熊対策を講じておくと安心です。また登山道の前半は川沿いを歩く区間が続き、その後は山頂までほぼ一気に急登となる構成のコースが多くなっています。雨の翌日などは登山道が濡れて滑りやすくなるとの報告もあり、特に川沿いの区間や急登部分では足元に十分注意したいところです。一部区間には林業の作業道を利用する箇所もあるため、道標を見落とさないよう慎重にルートを確認しながら歩くことが求められます。

竜門岳へのアクセスは近鉄大和上市駅からデマンドバス

吉野側の登山口となる山口集落へは、近鉄大和上市駅からデマンドバスを利用する方法のほか、マイカーでのアクセスも可能です。マイカーの場合は、国道169号を吉野川上流方向へ走り、途中で県道吉野室生寺針線に入って山間の集落を抜けながら山口集落を目指すルートが一般的です。吉野山口神社を目指せば、その左脇の谷間に登山口駐車場があります。駐車場にはバイオトイレも整備されているため、出発前に身支度を整えやすいでしょう。名阪国道を利用する場合は針インターチェンジで下り、国道369号・国道370号・国道169号を経由して南下していくアクセスとなります。事前に地図アプリなどで「竜門岳登山口」や「吉野山口神社」を目的地に設定しておくと、道に迷わずスムーズに登山口へ到着できます。

登山口周辺の津風呂湖は、1963年に津風呂川をせき止めて造られた周囲約32キロメートル、広さ150ヘクタールの灌漑用ダム湖で、桜の名所としても地元で親しまれています。春には湖畔に桜が咲き誇り、3月下旬には「津風呂湖ひらき」と呼ばれる湖上安全祈願祭を兼ねた桜まつりが開催され、以後、水神まつりやもみじ祭りなど四季折々の行事が催されます。4月から11月末までは一周およそ30分の遊覧船も運航しており、湖畔の散策コースはハイキングやサイクリングにも利用できます。コイやヘラブナ、ブラックバスなどの釣りも一年を通して楽しめるほか、近くには吉野運動公園や日帰り入浴のできる宮滝温泉もあり、登山とあわせて一日楽しめるエリアとなっています。より詳しい最新のアクセス情報や道路状況については、津風呂湖観光協会などに事前に問い合わせておくと安心です。

桜井側から入山する場合は、大宇陀方面から大峠トンネル方面へのアクセスとなり、公共交通機関の便はあまり良くないため、マイカー利用が現実的な選択肢となります。不動滝バス停を利用する場合は、事前にバスの運行本数を確認しておきたいところです。

竜門岳とあわせて楽しむ吉野山と談山神社

竜門岳の登山とあわせて訪れたいのが、日本一の桜の名所として名高い吉野山です。吉野山には山全体でおよそ3万本もの桜が植えられており、標高の違いによって下千本・中千本・上千本・奥千本と順に開花が進んでいく様子は見ごたえがあります。中でも中千本の吉水神社から望む景観は「一目千本」と呼ばれ、山肌一面が桜色に染まる光景で知られています。例年の見頃は4月上旬から下旬頃で、竜門岳と同じく「紀伊山地の霊場と参詣道」の世界遺産の構成資産にも数えられています。近鉄吉野駅からロープウェイで約3分の吉野山駅を起点に散策できるため、竜門岳登山の前後にあわせて訪れる旅程も組みやすいでしょう。

また、音羽三山経由で竜門岳へ向かうルートの起点近くには、桜井市の談山神社(たんざんじんじゃ)があります。白鳳7年(678年)、藤原鎌足の長男・定慧(じょうえ)が唐から帰国した際、鎌足の遺骨の一部を多武峰山頂に改葬し、木造十三重塔と講堂を建立して妙楽寺と称したのが始まりとされます。社名は、鎌足が中大兄皇子と蘇我入鹿暗殺の談合を行った「談い山(かたらいやま)」に由来します。現存する十三重塔は室町時代の再建で高さ17メートル、木造十三重塔としては現存唯一の遺構とされ、鎌足の墓塔とも伝えられています。桜、新緑、紅葉、雪化粧と四季を通じて美しい境内は、紅葉の名所としても広く知られています。竜門岳を含む一帯の山域を歩く際には、こうした歴史ある社寺にも足を延ばし、修験と信仰が織りなす吉野・多武峰エリアの奥深さをあわせて味わってみてください。

竜門岳は、標高904メートルという手頃な高さでありながら、日本三百名山に名を連ね、久米仙人の伝説や龍門寺跡、吉野山口神社といった歴史と信仰の物語を色濃く残す、奈良・吉野を代表する低山のひとつです。山そのものは大峯奥駈道の主稜線からは外れているものの、修験道の聖地・吉野に連なる山域として、古くから山岳修行の場として意識されてきた背景を持っています。登山口となる吉野山口神社から龍門滝、龍門寺跡を経て山頂を目指すルートは、歴史散策と登山を同時に楽しめるコースであり、桜井側からの大峠・三津峠を経由するルートや、音羽三山との縦走コースなど、体力や目的に応じて多彩な楽しみ方ができる山でもあります。山頂そのものは静かで素朴な佇まいですが、少し足を延ばした鉄塔付近からは二上山や金剛山、葛城山を望む展望が広がります。歴史と信仰、そして自然の展望を一度に味わえる竜門岳は、奈良県内の低山の中でも物語性の豊かな一座として、多くの登山者を惹きつけています。

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