高水三山は、奥多摩エリアに位置する高水山(759m)、岩茸石山(793m)、惣岳山(756m)の3つのピークを縦走する日帰り登山コースです。JR青梅線の軍畑駅を起点とし、御嶽駅へと下山するルートは、冬の日帰り登山に最適なコースとして多くのハイカーに親しまれています。東京都心からわずか1時間半から2時間というアクセスの良さに加え、標準コースタイム約4時間、総距離約10キロメートルというコンパクトな行程で、冬山の魅力を存分に味わうことができます。
冬の奥多摩は、夏とはまったく異なる表情を見せてくれます。落葉樹が葉を落とすことで頭上の空間が開放され、稜線には明るく温かな陽光が降り注ぎます。空気中の水分が凍結し落下することで大気は極限まで澄み渡り、夏場には霞んで見えなかった遠方の富士山や南アルプス、さらには都心のビル群までをも鮮明に映し出す天然の展望台へと変貌します。本記事では、高水三山の冬登山について、軍畑駅からのアプローチ、各山の特徴と歴史、装備の選び方、そして下山後の温泉やグルメまで、日帰りで楽しむための情報を詳しくお伝えします。

高水三山とは何か、冬に登る魅力と選ばれる理由
高水三山とは、奥多摩エリアにおいて高水山、岩茸石山、惣岳山という3つのピークを連ねる縦走コースの総称です。それぞれ異なる個性を持った山々を、1日で巡ることができる点が最大の特徴となっています。高水山は歴史ある古刹・常福院を擁し、数百年の歴史を感じさせる信仰の山としての顔を持ちます。岩茸石山は遮るもののない360度の大パノラマが広がり、冬の乾いた風を肌で感じることができる絶景の山です。惣岳山は岩場と木の根が複雑に絡み合い、アスレチックな要素と神域としての荘厳さを併せ持っています。
冬の時期に高水三山が強く推奨される理由は、このコースが持つ「絶妙なバランス」にあります。冬山登山において最も重要なのはリスク管理ですが、高水三山はJR青梅線の軍畑駅を起点とし、同じく青梅線の御嶽駅または沢井駅へと下山する「駅・トゥ・駅」の行程を組むことが可能です。冬の日照時間は極めて短く、午後4時を過ぎれば山中は急速に闘に包まれ、気温も急降下します。バスの時刻表に縛られず、自分のペースで行動を開始し、下山後すぐに暖房の効いた電車に乗れるという安心感は、冬山登山者にとって計り知れないメリットとなります。
また、1月から2月の厳冬期において、高水三山は完全な雪山にはなりませんが、北側斜面や風の吹き溜まりには雪が残り、場所によっては凍結も見られます。本格的な12本爪アイゼンやピッケルを必要とするほどの過酷さはありませんが、チェーンスパイクや軽アイゼンを装着し、雪を踏みしめる感触を楽しむことができます。凍てつく空気と白銀に染まる杉林の静寂は、都内の山とは思えない非日常的な体験を提供してくれます。
軍畑駅スタートが冬の高水三山で推奨される理由
高水三山を縦走する場合、時計回りの軍畑駅スタートか、反時計回りの御嶽駅スタートかの選択に迫られますが、冬場においては「軍畑駅スタート」が圧倒的に推奨されます。その最大の根拠は「日照と体温管理」にあります。
軍畑駅からのアプローチは、前半に舗装路歩きを含みますが、高水山への登りは比較的南東向きの斜面を利用することが多く、冬の低い太陽の光を背中や側面から受けながら登ることができます。これにより、登山開始直後の冷え切った体を自然に温めることが可能です。一方、御嶽駅側からのルートは急峻な北面を含むルートとなり、朝一番の体には厳しい寒さと暗さが待ち受けています。
最も眺望が良く昼食に適している岩茸石山で正午前後を迎えるタイムスケジュールを組む上でも、軍畑駅を午前8時から9時台に出発するプランが理想的です。標準的な行程は、休憩を含めて約5時間から6時間を見ておくべきでしょう。水平移動距離は約9.9km、累積標高差は登り下りともに約1000m前後となります。これは日帰り登山として「軽すぎず、重すぎない」絶妙な負荷であり、冬の運動不足解消にも最適な強度です。
冬の奥多摩における装備とレイヤリング戦略
冬の低山ハイクにおいて、最も警戒すべきリスクは「汗冷え」です。これは低体温症につながる危険な現象で、登りで大量にかいた汗が、稜線での休憩中や風の強い山頂で一気に冷やされ、体温を奪うものです。高水三山のようなアップダウンの多いコースでは、この体温調整の巧拙が快適性を決定づけます。
まず、肌に直接触れる「ベースレイヤー」の選定が生命線となります。綿素材は汗を吸うと乾きにくく、濡れたまま肌を冷やし続けるため、冬山では厳禁です。奥多摩の冬においては、メリノウールまたは高機能化学繊維の中厚手が推奨されます。メリノウールは天然の調湿機能を持ち、汗冷えしにくく、防臭効果も高いため、休憩の多いハイキングスタイルに向いています。運動量が多く発汗量が多い登山者は、撥水メッシュを下に着込み、その上に吸汗速乾性の高いベースレイヤーを重ねることで、肌面を物理的にドライに保つ手法が有効です。
「ミドルレイヤー」には、通気と保温のバランスが求められます。従来はフリースが主流でしたが、近年は「アクティブインサレーション」と呼ばれる着たまま行動できる化繊中綿ジャケットが注目されています。これらは行動中は蒸れを逃し、停滞中は保温するという相反する機能を備えており、高水三山のように樹林帯と稜線を行き来するコースに最適です。脱ぎ着のしやすさを重視して、フロントジッパータイプの薄手のフリースやダウンベストを活用するのも良いでしょう。
「アウターシェル」については、標高1000メートル以下の山とはいえ、冬の稜線では北風が容赦なく吹き付けます。ゴアテックス等の防水透湿素材を用いたハードシェル、あるいは防風性とストレッチ性に優れたソフトシェルが必須アイテムとなります。特に岩茸石山の山頂は遮るものがなく風が強いため、休憩時には必ずこれを羽織ることで体温の低下を防ぎます。
足回りの装備とチェーンスパイクの重要性
「低山だからスニーカーで大丈夫だろう」という油断は、冬の高水三山では事故の元凶となります。1月、2月の奥多摩エリアは、直近で降雪がなくても、日陰になった登山道が溶けた雪の再凍結によってアイスバーン化していることが多々あります。特に、高水山から岩茸石山への北側斜面や、惣岳山からの急な下り坂は、一度凍ると極めて滑りやすくなります。
冬の高水三山では、「6本爪アイゼン」または「チェーンスパイク」の携行が強く推奨されます。10本爪や12本爪の本格的な雪山用アイゼンは、雪のない岩場や木の根が露出したミックスルートでは逆に爪が高すぎて歩きにくく、引っ掛けて転倒するリスクがあります。着脱が容易なラチェット式の6本爪アイゼンや、靴底全体に小さな爪が配置されたチェーンスパイクは、雪、泥、凍結、落ち葉、岩が混在する奥多摩の複雑な路面状況に対して、最も汎用性の高い最適解を提供します。これらをザックに忍ばせておくことは、単なる滑り止め以上の「心の保険」として機能します。
軍畑駅から高水山登山口へのアプローチ
旅の始まりはJR青梅線の軍畑駅です。都心から青梅駅で乗り換え、単線のローカル色豊かな電車に揺られて到着するこの駅は、周囲を山に囲まれた無人駅としての静かな佇まいを見せています。駅名の「軍畑」は「いくさばた」と読み、戦国時代にこの地で繰り広げられた「辛垣の戦い」などの古戦場であったことに由来するとされ、その響きには歴史の重みが宿っています。駅舎を出ると、冷たく澄んだ空気が肺を満たし、都会の喧騒から完全に隔絶されたことを実感させます。
注意点として、軍畑駅周辺には自動販売機こそありますが、コンビニエンスストアのような充実した補給ポイントは期待できません。食料や十分な水は、青梅駅や河辺駅周辺、あるいは自宅近くのコンビニで事前に調達しておくのが鉄則です。
駅から踏切を渡り、高水山の登山口へと続くアプローチは、しばらくの間、舗装された車道を歩くことになります。この約30分間の車道歩きもまた、奥多摩の冬の風情を感じるための重要なプロセスです。沿道には民家が点在し、庭先にはこの地域の名産である柚子が、鮮やかな黄色の実をたわわに実らせている光景がよく見られます。冬枯れの景色の中で、柚子の黄色は生命力を感じさせるアクセントとなっています。左手に流れる平溝川のせせらぎを聞きながら、緩やかな勾配を登っていきます。川の水は冬の寒さで透明度を増し、低い太陽が水面をキラキラと照らしています。このウォーキングは、登山前のウォーミングアップとして最適です。
高源寺と登山道への入口
冷えていた筋肉が徐々に温まり、関節がほぐれ、心拍数が整ってきた頃、朱色の柱が印象的な「高源寺」が姿を現します。高源寺は、これより先の山域への入口を守る結界のような存在です。ここには登山者用の公衆トイレが設置されており、非常に重要な戦略的ポイントとなります。なぜなら、ここから先、高水山山頂直下の常福院に到達するまでの約90分間、トイレ施設は一切存在しないからです。ここで身支度を整え、上着を一枚脱いで体温調整を行い、靴紐を締め直すことが推奨されます。
高源寺の脇を抜け、巨大な砂防ダムの横にある急な階段を登ると、いよいよ本格的な登山道が始まります。舗装路から土の道へと変わる瞬間、足裏に伝わる感触が硬質なものから柔らかなものへと変化し、周囲の音も人工的な生活音から、風が木々を揺らす音や鳥の声といった自然の音へと切り替わります。
高水山への登りと冬の杉林
登山道に入ると、まずは奥多摩特有の杉やヒノキの植林帯が登山者を迎えます。整然と並ぶ木々の間から差し込む木漏れ日は、冬特有の低い太陽高度によって鋭角に森の床を照らし、幻想的な縞模様を描き出します。夏場であれば湿気がこもり、蒸し暑さを感じる植林帯も、冬は空気が乾燥しており、凛とした清涼感が漂っています。
道は九十九折の急登となり、一歩一歩着実に標高を稼いでいきます。このあたりから、登山道の脇や斜面に「霜柱」が見られるようになります。土中の水分が凍って持ち上げられた氷の結晶は、朝の光を受けて宝石のように輝き、踏みしめると「サクサク」という小気味よい音とともに崩れます。この感触こそ、冬の朝のハイキングならではの楽しみの一つです。
高水山常福院の歴史と文化
標高を上げ、息が上がり、ふくらはぎに疲労を感じ始めた頃、突如として立派な寺院の境内へと飛び出します。ここが「高水山常福院」です。真言宗豊山派の寺院であり、その歴史は古く、寺伝によれば鎌倉時代の名将・畠山重忠が深く信仰し、鎌倉へ向かうたびに立ち寄って戦勝祈願を行い、自身の短刀や銀の玉を奉納したと伝えられています。
境内には、東京都の重要文化財に指定されている「不動堂」が鎮座しています。このお堂は、過去に何度かの山火事で焼失したものの、文政5年(1822年)に再建されたもので、華美ではありませんが、風雪に耐えてきた古木のような力強い建築美を誇ります。堂内には「浪切白不動明王」が安置されており、古くから火難除けや厄除けの信仰を集めてきました。
特筆すべきは、この山深い寺院で毎年4月の第2日曜日に近い日に奉納される「高水山獅子舞」の伝統です。江戸時代中期の明和5年(1768年)頃に始まったとされるこの神事は、戦時中でさえ途切れることなく約250年にわたり継承されてきました。冬の常福院は、そのような熱気とは対照的に、深い静寂に包まれています。狛犬の頭に薄っすらと雪が積もり、吐く息が白く漂う中、不動堂に手を合わせる時間は、単なるスポーツとしての登山を超えた、精神的な浄化をもたらしてくれます。ここには清潔なトイレやベンチもあり、山頂直前の絶好の休憩スポットとなっています。
高水山山頂の特徴
常福院の裏手からさらにひと登りすると、最初のピークである高水山の山頂(759m)に到着します。山頂自体は樹木に囲まれており、360度の大展望というわけにはいきません。しかし、冬枯れの木々の隙間からは周囲の山並みが覗き、風の影響を受けにくい落ち着いた雰囲気があります。ベンチや東屋が設置されており、ここで最初の小休止を取るハイカーも多く見られます。多くのハイカーはここで長く留まることはせず、次の目的地であり、このコースのハイライトである岩茸石山へと期待を膨らませながら足を向けます。
岩茸石山への縦走と植生の変化
高水山を後にすると、道は一度下り坂になります。ここからの区間は、地形的にも植生的にも変化に富んでいます。北側の斜面に入ると、これまで土だった道が雪道や凍結路に変わることがあります。日陰に残った雪は踏み固められ、ツルツルに滑るアイスバーンとなっている場合もあるため、ここで状況に応じてチェーンスパイクを装着する判断が求められます。
左手の南側は杉やヒノキの人工林、右手の北側は広葉樹の自然林というコントラストが見られる場所もあります。冬の広葉樹林は葉を落としているため非常に明るく、頭上には深い青空が広がっています。この明るさと開放感が、冬の低山縦走の醍醐味の一つです。
高水山と岩茸石山の間の稜線歩きを楽しんだ後、最後に待ち受けているのは、岩と木の根が露出した急登です。息を切らせながら、手を使ってバランスを取りつつ、この壁のような坂を登りきると、視界が一気に開け、岩茸石山の山頂(793m)に飛び出します。
岩茸石山の絶景と360度のパノラマ
岩茸石山の山頂には、これまでの樹林帯歩きの苦労をすべて報いてくれるような、圧倒的な開放感が待っています。この山頂は、高水三山の中で最も眺望に優れた場所として知られています。北西方向には、東京都最高峰である雲取山(2017m)や飛龍山が、白い雪を冠して威風堂々と聳え立っています。西には川苔山や本仁田山が力強く並び、その山肌の陰影までがはっきりと見て取れます。そして南東方向に目を転じれば、広大な関東平野が一望でき、空気が澄んだ日には新宿の高層ビル群、東京スカイツリー、さらには東京湾や房総半島の山々までを見渡すことができます。
岩茸石山の山頂は比較的広く平らなスペースがあり、多くのハイカーがここで昼食をとります。雪が積もっていれば、雪だるまを作ったり、雪面にシートを敷いて座り、温かい飲み物を楽しんだりする姿が見られます。ただし、遮るものがないため、風が強い日は体感温度が氷点下になることも珍しくありません。行動中は暑くて脱いでいたアウターシェルやダウンジャケット等の防寒着を、到着したらすぐに羽織ることが重要です。ここでの食事には、お湯を注ぐだけで温まるカップラーメンやフリーズドライのスープが最適です。バーナーを使用する場合は、風防を持参するか、火力が強いモデルを選ぶと良いでしょう。絶景を眺めながらの温かい食事は、何物にも代えがたい贅沢な時間となります。
惣岳山への縦走と伐採地の眺望
岩茸石山から最後のピークである惣岳山へのルートは、この縦走の中で最もテクニカル、かつ視覚的な変化に富んだ区間です。まず、岩茸石山からの激しい下り坂が始まります。濡れた土や雪、浮石が混在する急斜面は滑りやすく、慎重な足運びが求められます。特に北斜面の下りは凍結している可能性が高く、チェーンスパイクのグリップ力が頼りになります。
その後、尾根道を進むと、突如として視界が開ける「伐採地」に出現します。ここは植林された木々が伐採され、一時的に禿山のような状態になっているエリアです。一見すると荒涼とした風景にも見えますが、視界を遮るものがないため、ここからも都心方面や北側の山々の素晴らしい眺望が得られます。また、綺麗に植え直された若木や、放置されずに管理された山肌は、奥多摩が単なる観光地ではなく、現在進行形で営まれている林業の現場であることを登山者に教えてくれます。この「人の手が入った山の景色」もまた、里山ならではの風景と言えるでしょう。
惣岳山への険しい登りとアドベンチャー要素
惣岳山への最後のアプローチは、巨大な岩や木の根が複雑に絡み合った急斜面を登り返すことになります。「岩と根の殿堂」とも呼べるこの区間は、手を使って三点支持を意識しながら登る必要があり、ちょっとしたロッククライミングのようなアスレチック的な楽しさがあります。
惣岳山と青渭神社奥宮の神聖な空間
険しい道を登りきると、惣岳山の山頂(756m)に到着します。ここは岩茸石山とは対照的に、鬱蒼とした木々に囲まれた広場となっており、展望はありません。しかし、ここには独特の神聖な空気が漂っています。
山頂の中央には「青渭神社」の奥宮が鎮座しています。この神社の創建は古く、社伝によれば崇神天皇7年にまで遡るとされ、大国主命を祀っています。現在、この社殿は金網で厳重に保護されています。一見すると無粋にも見えますが、これは風雨による劣化防止のみならず、近年増加している野生動物による損壊や、心ない悪戯から貴重な文化財を守るための措置と考えられます。金網越しに目を凝らせば、社殿に施された精巧な彫刻を確認することができます。
また、山頂の一角には注連縄が張られた巨木、「しめつりの御神木」が立っています。古来より、この場所が聖域として崇められてきたことを示す象徴であり、このご神木から先は神の領域とされています。かつてはここに「真名井」と呼ばれる霊泉が湧き、それが社名(青渭=青い水)の由来になったとも言われていますが、現在は水枯れしていることが多いようです。この山頂は、眺望を楽しむ場所というよりは、古の人々の祈りに思いを馳せる場所と言えるでしょう。
御嶽駅への下山と獣害対策の現実
惣岳山からの下山路は、御嶽駅へ向けて標高差約500メートルを一気に下るルートです。この道は別名「根っこ道」とも呼ばれるほど、杉の木の根が網の目のように地表を覆い尽くしています。疲労が蓄積した足には、この不規則な凹凸が堪えます。特に冬場は、根の上に薄っすらと雪や霜が乗ることで非常に滑りやすくなるため、最後まで気を抜けません。膝への負担を軽減するために、トレッキングポールの使用が非常に有効です。
下山の途中、登山道の脇に張り巡らされたネットやフェンスを目にすることになります。これは、近年奥多摩エリアで深刻化しているシカやイノシシによる食害を防ぐための防護柵です。シカの増加は深刻で、彼らは樹皮を剥いで食べたり、希少な高山植物を食い荒らしたりすることで、山の生態系や林業に甚大な被害を与えています。スズタケなどの下草が消滅し、土壌が流出しやすくなっている場所もあります。電気柵や物理的な金網フェンスは、人間と野生動物の生活圏を分けるための苦肉の策であり、これらの柵の扉を通る際は、必ずしっかりと鍵を閉めることがハイカーのマナーとして強く求められます。この柵の存在は、美しい自然の裏側にある厳しい現実を私たちに突きつけます。
御嶽駅への到着と関東の駅百選
長い下りを終え、送電鉄塔の下をくぐると、ようやく人里の気配がしてきます。慈恩寺の鐘楼の脇を抜け、民家の間を通って青梅線の踏切を渡ると、ゴールの御嶽駅は目の前です。御嶽駅の駅舎は、関東の駅百選にも選ばれた風情ある日本家屋風の建築で、登山客を迎える玄関口として親しまれています。駅前のセブンイレブンで温かいコーヒーを買ったり、自動販売機で飲み物を補充したりする瞬間、無事に下山できた安堵感が広がります。
下山後に楽しむ御岳渓谷の美しさ
冬の登山の喜びは、山を下りた後にこそ完成します。御嶽駅のすぐ裏手には、多摩川が形成した美しい渓谷「御岳渓谷」が広がっています。冬の水はプランクトンが減少し極めて透明度が高く、コバルトブルーに輝く流れは「日本の名水百選」にも選ばれています。遊歩道が整備されており、登山後のクールダウンとして川沿いを散策するのも一興です。冬でもドライスーツを着てカヌーやラフティング、そして岩場でボルダリングを楽しむ人々の姿が見られ、アウトドアタウンとしての活気を感じさせます。
澤乃井での利き酒体験
御嶽駅から遊歩道を下流へ20分ほど、あるいは電車で一駅隣の沢井駅へ移動すると、奥多摩を代表する酒蔵、小澤酒造が運営する「澤乃井園・清流ガーデン」に到着します。ここには「利き酒処」があり、常時10種類以上の日本酒を一杯200円から500円という非常にリーズナブルな価格で試飲することができます。特筆すべきは、最初の一杯に付いてくる「お猪口」を持ち帰ることができるシステムです。お代わりの際はそのお猪口を使うことで100円引きになります。冬限定の「しぼりたて」や「新酒」は、フレッシュな香りと味わいが特徴で、疲れた体に染み渡ります。多摩川の清流を見下ろすテラス席で、名物の豆腐料理や酒饅頭と共に味わう日本酒は、まさに至福のひとときです。
下山後の温泉で冷えた体を温める方法
登山の汗を流すなら、日の出町にある「生涯青春の湯 つるつる温泉」が有名です。この温泉は、pH9.9からpH10.0近い強アルカリ性の泉質を誇り、入浴すると肌がヌルヌル・スベスベになることからその名がつきました。かつては、武蔵五日市駅からこの温泉への送迎バスとして、機関車型のトレーラーバス「青春号」が運行され、そのユニークな姿が名物となっていましたが、車両の老朽化に伴い2023年3月をもって惜しまれつつ引退しました。現在は通常の路線バスが運行されていますが、温泉の質と食堂の充実は変わらず、登山者の癒やしの場として機能しています。
なお、高水三山からの下山後に直接向かう場合、御嶽駅から電車で青梅駅へ戻り、そこからバス等を利用するよりも、御嶽駅から近い「河辺温泉 梅の湯」や、奥多摩駅まで移動して「奥多摩温泉 もえぎの湯」を利用する方が、移動時間的にはスムーズかもしれません。河辺温泉は河辺駅直結という利便性があります。それぞれの温泉に特徴があるため、帰宅ルートや好みに合わせて選ぶと良いでしょう。
御岳エリアのグルメと歴史ある蕎麦
御岳エリアは水がきれいなため、蕎麦の名店が点在しています。「玉川屋」は茅葺き屋根の古民家で、太宰治も訪れたという由緒ある店です。手打ちの蕎麦はコシがあり、川魚の塩焼きや山菜の天ぷらと共に味わうことができます。また、近年はオシャレなカフェも増えています。「MITAKE TERRACE」では、渓谷を眺めながらチキン&ワッフルなどのランチを楽しめます。古民家を改装した「沢井マウンテンカフェ」は、隠れ家的な雰囲気で、こだわりのコーヒーやスイーツを提供していますが、冬季は休業期間があったり、営業時間が短縮されたりする場合があるため、訪問前に公式SNS等での確認が必須です。
冬の高水三山が教えてくれるもの
高水三山の冬の日帰り登山は、単なる運動不足解消以上の価値を私たちに提供してくれます。それは、葉を落とした木々の間から差し込む光の暖かさであり、凍てついた土を踏みしめる確かな感触であり、澄み渡った空気の向こうに見える山々の荘厳さです。
畠山重忠が祈りを捧げた常福院の歴史、現代の林業が抱える課題が見える伐採地の風景、そして古くから続く御神木の存在。これら歴史的・文化的背景を知った上で歩く山道は、単なるトレッキングコースから、時空を超えた物語の舞台へと変わります。そして、山を下りた後に待っている温泉の温もりと、地酒の芳醇な香り。これらすべてが凝縮された一日を過ごすことで、明日からの日常を生き抜く活力が養われるのです。
冬山への第一歩として、あるいはベテランハイカーの足慣らしとして、冬の高水三山は訪れるすべての登山者を静かに、しかし力強く受け入れてくれる懐の深い山です。軽アイゼンをザックに忍ばせて、軍畑駅のホームに降り立ってみてはいかがでしょうか。そこには、夏には出会えない「白と青の世界」が待っています。









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