比叡山登山ガイド|京都・滋賀から楽しむ霊峰848mの全ルート

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比叡山登山とは、京都府と滋賀県の県境にそびえる標高848メートルの霊峰を、整備された複数のルートから楽しめる人気のトレッキングです。京都側の修学院・八瀬、滋賀側の坂本という三方からアクセスでき、初心者から経験者まで一年を通じて親しまれています。山上には天台宗の総本山である延暦寺が広がり、1994年にはユネスコの世界文化遺産にも登録されました。

比叡山の魅力は、800メートル台という手ごろな標高でありながら、1200年以上の歴史を持つ寺院群、豊かな自然、そして山頂から望む琵琶湖と京都市街地の双方の眺望という、他に類を見ない景観の組み合わせにあります。日本仏教の母山と称されるその霊的な雰囲気と、四季折々に変化する自然美は、登山者を何度でも惹きつけてやみません。本記事では、京都・滋賀の両側から登る比叡山登山のルート選びから難易度、アクセス、装備、季節の見どころ、延暦寺参拝の楽しみ方まで、登山を計画する際に必要な情報を網羅的にまとめました。

目次

比叡山とは 京都と滋賀にまたがる霊峰の基本情報

比叡山とは、京都府京都市左京区と滋賀県大津市にまたがる標高848メートルの山です。最高点は大比叡(おおびえ)と呼ばれ、東西に広がる山体を形成しています。山全体が延暦寺の境内となっており、その広さは甲子園球場500個分にも相当するといわれます。

山の西側には京都の市街地が、東側には日本最大の湖である琵琶湖が広がっており、二つの絶景を一度に楽しめる稀有なロケーションが特徴です。山頂付近の年平均気温は麓の市街地より約5〜6度低いため、夏でも涼しく過ごせ、古くから避暑地として重宝されてきました。冬季には積雪があり、雪化粧した延暦寺の伽藍も格別な景観を見せます。

比叡山は「山の神」として古来より崇められ、最澄(767〜822年)が延暦7年(788年)に一乗止観院(後の根本中堂)を建立して以来、日本仏教の中心的な霊場として発展してきました。法然、親鸞、道元、栄西、日蓮といった各宗派の開祖が比叡山で修行を積んだことから、「日本仏教のゆりかご」とも呼ばれています。

比叡山登山の主要ルート 京都側と滋賀側の選び方

比叡山登山のルートは、大きく三つに分かれます。京都側からの雲母坂ルート、滋賀県側からの本坂(坂本)ルート、そして京都の八瀬からケーブルカーとロープウェイを乗り継ぐルートです。いずれも登山道は整備されており、迷いにくいコース設定となっています。

ルートを選ぶ際の基準としては、歴史ある古道を歩きたい方は雲母坂、整備された道で安全に登りたい方は本坂、体力に自信のない方やお子様連れは八瀬という選び方が一般的です。京都側と滋賀側を組み合わせた縦走も人気で、片道を公共交通機関と組み合わせることで効率よく楽しめます。

雲母坂ルート 京都・修学院から登る歴史ある古道

雲母坂(きららざか)ルートは、京都側から比叡山に登る代表的な古道です。古くから修行僧や参拝者が利用してきた歴史ある道で、親鸞聖人も歩いたと伝えられています。

起点は叡山電車の修学院駅です。修学院駅から住宅街を抜けて登山口まで徒歩約20〜25分、そこから登山道に入ります。登り始めは谷間を縫うように続く急登があり、最初の15〜20分ほどが最もきつい区間です。その後は比較的なだらかな尾根道に変わり、ブナやケヤキなどの落葉広葉樹に囲まれながら高度を上げていきます。

登山口からケーブル比叡駅までは約1時間40分、そこから延暦寺東塔エリアまでさらに歩いて到達できます。修学院駅から延暦寺までの所要時間は、全体で3〜4時間程度が目安です。歴史的な古道の雰囲気を味わいたい登山者にとって、雲母坂ルートは比叡山登山の王道といえます。

本坂ルート 滋賀・坂本から登る初心者向けの定番

本坂ルートは、滋賀県大津市の坂本地区から登る登山道で、比叡山の登山道の中で最も整備されている初心者向けのコースです。出発点はJR比叡山坂本駅、または京阪石山坂本線の坂本比叡山口駅となります。

坂本は比叡山の門前町として古くから栄えた地域で、穴太衆(あのうしゅう)積みと呼ばれる石積みの職人集団によって築かれた石垣が続く情緒ある街並みが魅力です。坂本比叡山口駅から日吉大社の鳥居横にある石段が登山道の入口となります。

登山道は本坂(ほんざか)と呼ばれる古道で、石畳や石段が連続します。坂本の登山口から延暦寺の根本中堂までは約80分、さらに頂上の大比叡まで約40分のコースタイムです。危険個所が少なく安全に歩けるため、ファミリーハイキングにも適しています。石段が多いため膝への負担はありますが、全体的に難易度は低めです。

八瀬ルート ケーブルカーとロープウェイで山頂へ

八瀬ルートは、京都市内の八瀬から叡山ケーブルと叡山ロープウェイを利用して比叡山頂駅へアクセスする方法です。ケーブルカーを使うため、山頂近くまで体力をほとんど使わずに到達できます。小さなお子様連れや体力に自信のない方でも気軽に楽しめるのが大きな特徴です。

叡山電車の八瀬比叡山口駅から徒歩約5分でケーブル八瀬駅に到着し、ケーブルカーで約9分乗車してケーブル比叡駅へ、さらにロープウェイで約3分で比叡山頂駅に至ります。山頂エリアから延暦寺東塔や西塔へは、シャトルバスや徒歩でアクセス可能です。

ケーブルカーとロープウェイの料金はそれぞれ有料ですが、叡山電車と組み合わせたお得な切符が販売されています。シーズン中は混雑することもあるため、事前に時刻表や切符情報を確認しておくとよいでしょう。

比叡山登山の難易度と所要時間

比叡山登山の難易度は、ルートによって易しい〜やや難しいまで幅があります。全体としては低〜中程度の難易度で、一般的な登山道として整備されているため、適切な準備さえあれば初心者でも楽しめます。

ルート別の難易度と所要時間は次の通りです。

ルート難易度所要時間(片道)特徴
本坂ルート(坂本〜延暦寺)易しい〜普通約1時間30分〜2時間石段・石畳が多く歩きやすい。迷いやすい箇所はほぼない
雲母坂ルート(修学院〜延暦寺)普通約3〜4時間序盤に急登あり。歴史的な古道の雰囲気を味わえる
縦走コース(修学院〜大比叡〜坂本)普通〜やや難しい5〜7時間距離は11キロ前後。主稜線を歩き山頂を経由
無動寺コース(坂本側)普通(鎖場あり)約3時間鎖場があるが慎重に進めば通過可能。修行の道の雰囲気

縦走コースとして、修学院から大比叡を経由して滋賀県側の坂本へ下るルートも人気があります。全歩行距離は約11キロ、所要時間は5〜7時間となり、京都と滋賀の景色を一度に楽しめる充実したコースです。

比叡山の歴史と延暦寺の魅力

延暦寺の創建は、延暦7年(788年)にさかのぼります。最澄が比叡山に登り、薬師如来を本尊とする一乗止観院を建立したことに始まり、天台宗の教えを日本に広めることに生涯を捧げました。

延暦寺は歴史の中で幾多の困難に直面してきました。織田信長による1571年の焼き打ちでは建物の多くが灰燼に帰しましたが、その後の豊臣秀吉や徳川家によって再建が進められ、現在の姿に至っています。1994年には「古都京都の文化財」の一部として世界文化遺産に登録され、国内外から多くの参拝者・観光客が訪れる霊場となっています。

延暦寺の三塔 東塔・西塔・横川の見どころ

延暦寺の境内は、東塔(とうどう)・西塔(さいとう)・横川(よかわ)の三つのエリアに分かれており、それぞれに重要な堂宇が点在しています。

東塔エリアは延暦寺の中心地で、総本堂である根本中堂がここに位置しています。根本中堂は延暦寺最大の仏堂で、最澄が創建した一乗止観院の法灯を今に伝えています。堂内には「不滅の法灯」と呼ばれる灯明があり、最澄が灯して以来1200年以上、一度も消えることなく燃え続けているとされています。現在、根本中堂は大規模な保存修理工事が行われており、工事の様子を間近に見ることもできます。

西塔エリアには本堂にあたる釈迦堂(転法輪堂)があります。最澄自作と伝わる本尊の釈迦如来像を安置しており、比叡山で現存する最古の建造物といわれています。二つの建物が廊下でつながれた「にない堂」も西塔の代表的な建物で、常行堂と法華堂から構成されています。

横川エリアは三塔の中で最も北に位置し、深い山林の中に静かにたたずむエリアです。横川中堂、恵心堂、四季講堂(元三大師堂)などが点在しています。元三大師(良源)が住持した地として知られ、おみくじの発祥地とも伝えられています。

千日回峰行とは 比叡山に伝わる壮絶な修行

千日回峰行(せんにちかいほうぎょう)とは、比叡山に伝わる天台宗の荒行で、7年にわたり山中の峰々を歩き続ける修行のことです。その壮絶な内容は世界的にも注目されています。

千日回峰行の祖は、天長8年(831年)生まれの相応和尚(そうおうかしょう)とされています。「千日」とは名称上のもので、実際に歩く日数は975日です。前半3年間は年100日、4・5年目は年200日、6・7年目は再び年100日、比叡山の峰々を歩き続けます。

一日の行程では、深夜2時頃に起床し、東塔・西塔・横川および日吉大社など260か所以上の拝所を礼拝しながら約30キロメートルを歩きます。これを平均6時間で行い、参拝が終わると坐禅・読経・食事・就寝という生活を繰り返します。修行中の装束は白装束で、腰には自刃用の短刀と吊縄を帯び、途中で修行を完遂できなくなった場合の厳格な誓いを示しています。

700日目には最も過酷な「堂入り」と呼ばれる行に入ります。堂入りでは9日間にわたって断食・断水・不眠・不臥の状態を保ち、ひたすら不動真言を唱え続けます。満行を遂げた者は「北嶺大先達大行満大阿闍梨(ほくれいだいせんだつだいぎょうまんだいあじゃり)」と称され、京都御所に土足で参内できる特別な権限が与えられます。千日回峰行の開始から1000年以上が経過した現代においても、この行を完遂した人物は50人余りに留まっています。

比叡山の四季と季節ごとの見どころ

比叡山は一年を通して美しい自然の表情を楽しめる山です。標高差があるため、麓と山上では季節の進み具合が異なり、植物の開花や紅葉の時期が変化することも魅力の一つとなっています。

春(4月〜5月)は、京都市街地より約1か月遅れた4月下旬頃から桜が見頃を迎えます。山上では京都の桜が散りゆく頃に延暦寺境内の桜が満開となり、独特の春の景色を演出します。4月中旬から6月にかけては青もみじの美しい季節で、透き通るような新緑が山全体を包み、苔むした石畳と若葉の緑のコントラストが幻想的な雰囲気を醸し出します。

夏(6月〜8月)は、山頂付近が市街地より5〜6度低い気温を保ち、避暑地として最適です。濃い緑に包まれた登山道は心地よい木漏れ日の中を歩け、夏の暑さを忘れさせてくれます。延暦寺境内では緑豊かな参道を散策でき、清涼感あふれる時間を楽しめます。

秋(10月〜11月)は、比叡山の紅葉が市街地より約1か月早く始まります。10月下旬から11月にかけて、2000本を超えるモミジや桜の木々が赤・橙・黄に染まり、山全体が鮮やかな秋の彩りに包まれます。特に延暦寺境内の各堂宇と紅葉の組み合わせは格別の美しさで、多くの写真愛好家や観光客が訪れます。奥比叡ドライブウェイ沿道の紅葉もみごとで、ドライブを楽しむ人も多くいます。

冬(12月〜3月)は、雪が積もった比叡山が幽玄な雰囲気を漂わせます。積雪時は登山道が凍結することがあるため、軽アイゼンなどの装備が必要ですが、雪化粧した根本中堂や釈迦堂は格別の美しさです。冬季の登山は防寒対策を万全にしたうえで楽しみましょう。

比叡山登山のベストシーズンはいつ

比叡山登山のベストシーズンは、結論からいえば春の4月下旬〜5月と秋の10月下旬〜11月です。気候が穏やかで、桜・新緑・紅葉といった自然の見どころが充実している時期にあたります。

春は桜と新緑の季節で、爽やかな気候の中で登山を楽しめます。京都市街地の桜より遅めに咲くため、「お花見の最後のチャンス」として訪れる人も多い時期です。秋は紅葉のシーズンで、年間を通じて最も賑わいます。比叡山の紅葉は麓より早く始まるため、京都の紅葉を先取りする感覚で楽しめるのが特徴です。

夏(7月〜8月)は避暑登山として人気で、涼しい山上で緑豊かな森林浴を楽しめます。冬(12月〜2月)は雪景色が美しいシーズンですが、積雪に備えた装備が必須です。観光客が少ないため、静かな延暦寺を堪能したい方に向いています。

避けたほうがよいシーズンとしては、梅雨の時期(6月)や台風シーズン(9月)が挙げられます。登山道が滑りやすくなるうえ、視界も悪くなることがあるため、無理のない計画を立てましょう。

比叡山へのアクセス方法 京都・滋賀それぞれの行き方

比叡山へは、京都側と滋賀県側の両方から公共交通機関を使って便利にアクセスできます。

京都側からのアクセス(八瀬ルート)では、京阪電車の出町柳駅から叡山電車に乗り換え、「八瀬比叡山口駅」で下車します。叡山電車は出町柳〜八瀬比叡山口間を約15分で結んでいます。八瀬比叡山口駅からケーブル八瀬駅まで徒歩約5分、叡山ケーブルでケーブル比叡駅へ(約9分)、さらに叡山ロープウェイで比叡山頂駅へ(約3分)と乗り継ぎます。京都バスを利用する場合は、京都駅や地下鉄国際会館駅方面からもアクセスが可能です。

滋賀県側からのアクセス(坂本ルート)では、JRを利用する場合、京都駅からJR湖西線で「比叡山坂本駅」まで約21分(JR大津駅経由)で到着します。駅から登山口までは徒歩約20分です。京阪電車を利用する場合は、京阪京都線から石山坂本線に乗り換え、「坂本比叡山口駅」が最寄り駅となります。駅から日吉大社前(登山口)までは徒歩約5〜10分です。

坂本ケーブルを利用すれば、ケーブル坂本駅から延暦寺駅まで約11分で到達できます。坂本ケーブルは全長2025メートルで、日本一の長さを誇るケーブルカーとして知られています。ケーブルカーから望む琵琶湖の眺めは素晴らしく、乗車自体がひとつの観光体験となっています。

比叡山登山に必要な準備と装備

比叡山は低山ですが、しっかりとした準備をして臨むことが安全で快適な登山につながります。装備の基本は、適切な服装と靴、雨具、水分と食料、そして地図やスマートフォンなどの安全装備です。

服装と靴については、登山用のトレッキングシューズを着用しましょう。長い石段や岩場もあるため、足首をしっかり支えるタイプが安心です。服装は重ね着ができるレイヤリングが基本で、山上は麓より気温が低いため、夏でも薄手のジャケットを持参すると良いでしょう。

雨具は、山の天気が変わりやすいことを踏まえ、コンパクトに収納できるレインウェアの携行をおすすめします。特に春から梅雨時期、台風シーズンは注意が必要です。

水分と食料については、山中に補給できる場所が限られているため、水は1〜1.5リットルほど持参し、エネルギー補給のための軽食・行動食も用意しておきましょう。延暦寺境内には食事処や売店がありますが、混雑時は待ち時間が発生することもあります。

その他の持ち物として、地図・コンパス(またはスマートフォンの地図アプリ)、応急処置セット、スマートフォンの予備バッテリー、日焼け止め、虫除けスプレーがあると便利です。

冬季の装備としては、積雪時に軽アイゼン(4〜6本爪)の携行を強くおすすめします。登山道が凍結すると非常に滑りやすくなるため、安全対策は欠かせません。防寒着もしっかり準備しましょう。

比叡山日帰り登山のモデルコース

比叡山の日帰り登山には、いくつかの代表的なモデルコースがあります。体力や目的に応じて選びやすいよう、三つのパターンを紹介します。

コース1は、修学院から登り坂本へ下る縦走コース(全日程約7時間)です。叡山電車の修学院駅を出発し、雲母坂登山口(徒歩20〜25分)、雲母坂を登る(約1時間40分)、ケーブル比叡駅付近で休憩、延暦寺東塔エリア見学(約1〜1.5時間)、大比叡(山頂、848メートル)まで徒歩約30〜40分、本坂ルートで下山(約1時間30分)、京阪坂本比叡山口駅にゴールという行程です。京都と滋賀の両方を一度に味わえる充実コースです。

コース2は、坂本から往復する半日コース(約3〜4時間)です。京阪坂本比叡山口駅を出発し、日吉大社参拝、本坂登山口から延暦寺東塔エリアまで約1時間30分、根本中堂参拝・東塔エリア見学(約1〜1.5時間)、同じルートで下山(約1時間20分)、坂本比叡山口駅にゴールという行程です。比較的体力に余裕を持って楽しめます。

コース3は、ケーブルカーを利用した楽々コース(半日程度)です。叡山電車の八瀬比叡山口駅を出発し、叡山ケーブルとロープウェイで比叡山頂へ(約15分)、延暦寺東塔・西塔エリアをシャトルバスや徒歩で見学(約2〜3時間)、坂本ケーブルで坂本へ下山(約11分)、坂本の街並み散策後に京阪坂本比叡山口駅にゴールという流れです。体力に自信がない方でも比叡山の魅力を満喫できます。

延暦寺の拝観について

延暦寺の参拝には、拝観料が必要です。東塔・西塔・横川の各エリアに入るためのチケットが必要で、複数エリアを訪れる場合はセット券がお得になっています。

拝観時間は季節によって異なりますが、概ね9時から16時(最終受付15時30分)です。冬季は閉門が早まる場合があるため、公式サイトで最新情報を確認することをおすすめします。

東塔・西塔・横川の各エリアを全て回ると、徒歩のみで半日以上かかります。時間に余裕を持って訪れるか、シャトルバスを活用してエリア間を移動するとよいでしょう。延暦寺では体験プログラムも用意されており、写経・法話・坐禅などを体験できます。事前予約が必要なプログラムもありますので、詳細は公式サイトで確認してください。

坂本の門前町を楽しむ 滋賀側登山のもう一つの魅力

登山後には、滋賀県大津市坂本の門前町散策もおすすめです。坂本は、延暦寺に仕えた里坊(りぼう)と呼ばれる僧侶たちの住居が建ち並ぶ歴史的な街並みが残っており、平成9年(1997年)には国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。

坂本の石垣は「穴太衆積み」と呼ばれる特別な工法で積まれたもので、自然石を巧みに組み合わせた独特の景観を作り出しています。穴太衆は石積みの名人集団として全国の城郭工事にも携わった職人集団です。

日吉大社は全国約3800社の日吉・日枝・山王神社の総本社で、比叡山の麓に鎮座し、天台宗の護法神として延暦寺と深い縁で結ばれています。境内には国宝・重要文化財に指定された建造物が多数残されており、特に西本宮と東本宮の社殿は歴史的価値が高く、見応えがあります。11月中旬の紅葉シーズンには境内全体が赤や黄色に染まり、幻想的な雰囲気を醸し出します。青もみじの新緑も美しく、春から初夏の時期にもぜひ訪れたいスポットです。

旧竹林院は坂本の里坊の一つで、国の名勝に指定された庭園を持っています。枯山水と池泉回遊式を組み合わせた雅趣ある庭園は四季折々の美しさを見せ、特に新緑と紅葉の時期の景観は息をのむほどの美しさです。坂本ケーブルの坂本駅舎は大正時代に建てられた歴史的建造物で、大正ロマンを感じさせるレトロな佇まいが人気を博しています。

京都一周トレイルと比叡山

比叡山は「京都一周トレイル」の重要な通過点でもあります。京都一周トレイルとは、京都市をぐるっと囲むように設定された全長約84キロメートルのトレッキングルートで、伏見桃山から比叡山・大原・鞍馬を経て高雄・嵐山まで続きます。

このトレイルは東山コース・北山東部コース・北山西部コース・西山コースに分かれており、比叡山は北山東部コースの一部として組み込まれています。北山東部コースは大比叡から延暦寺西塔、玉体杉、横高山、水井山、仰木峠を経て大原へと続く縦走路で、比叡山の稜線を歩きながら広大な自然を堪能できます。

縦走路から望む大原の里の景色は格別で、都市近郊でありながら深山の雰囲気を味わえます。北山東部コースはトレイルランナーにも人気で、累積標高約1360メートル・約33キロメートルのコースとして各種トレイルランニングイベントでも使用されています。体力に自信がある方は、比叡山登山と大原散策を組み合わせた縦走に挑戦するのもおすすめです。

比叡山周辺のおすすめ立ち寄りスポット

比叡山登山と組み合わせて訪れたいスポットも豊富にあります。京都側・滋賀側それぞれに魅力的な場所が点在しており、登山と観光を組み合わせた旅を楽しめます。

大原(京都市左京区)は、比叡山から北に下った場所に位置する閑静な山里で、三千院・宝泉院・寂光院などの名刹が点在しています。「京の奥座敷」とも呼ばれ、のどかな田園風景の中に佇む寺々の情緒が格別で、比叡山縦走後の立ち寄りスポットとして非常に人気があります。

修学院離宮(京都市左京区)は、雲母坂ルートの登山口に近い修学院に位置し、17世紀に後水尾上皇によって造営された離宮です。広大な敷地に上・中・下の三つの離宮が配置され、特に上の離宮からの眺望は京都の山里を一望できる絶景として知られています。参観には事前申込が必要です。

叡山電車(きらら・ひえい)は、比叡山へのアクセスに利用する路線電車で、「もみじのトンネル」で有名な貴船口〜市原間を走る際の車窓風景が特に人気です。秋には紅葉が線路を覆い、幻想的な景色が楽しめます。観光列車「きらら」は大きな窓から山の緑を堪能でき、ハイシーズンには多くの観光客が乗車します。

比叡山登山についてよくある疑問

比叡山登山を計画する際、初めての方が気になる疑問について、要点を整理してお答えします。

比叡山登山は初心者でも可能かという疑問について、結論からいえば可能です。特に滋賀県側の本坂ルートは整備された石段・石畳の道で、危険個所が少なく、ファミリーハイキングにも適しています。体力に自信のない方は、八瀬からのケーブルカー・ロープウェイ利用も選択肢となります。

比叡山登山の所要時間はどのくらいかという点については、ルート次第ですが、片道1時間30分から4時間程度が一般的です。最短は坂本からの本坂ルートで約1時間30分、最長は修学院からの雲母坂ルートで約3〜4時間です。縦走コースを選ぶ場合は5〜7時間を見ておきましょう。

京都側と滋賀側のどちらから登るのがよいかという点については、目的次第です。歴史ある古道を歩きたい方は京都の雲母坂、整備された道で安全に登りたい方は滋賀の本坂、体力に自信のない方は京都の八瀬ルートが適しています。両側を組み合わせた縦走で、京都と滋賀の景色を一度に楽しむのも人気の選択肢です。

延暦寺の拝観は登山と一緒に楽しめるかという点については、もちろん可能であり、むしろセットで楽しむのが比叡山登山の醍醐味です。東塔・西塔・横川の三エリアを全て巡るには半日以上かかるため、時間に余裕を持って計画しましょう。

比叡山登山の実用情報

比叡山登山をスムーズに楽しむための実用情報をまとめます。延暦寺の拝観料は、東塔・西塔・横川の共通券が大人1,000円前後となっています(料金は変更になる場合があるため、公式サイトで最新情報を確認してください)。坂本ケーブルや叡山ケーブルも別途乗車料金がかかります。

比叡山内にはトイレが設置されていますが、登山道上での設置箇所は限られています。出発前にトイレを済ませておくか、延暦寺境内のトイレを活用しましょう。

スマートフォンのアプリ(YAMAPや山と高原地図など)を事前にインストールしておくと、GPSを使ったルート確認ができて安心です。電波が入りにくい区間もあるため、オフラインでも利用できるよう地図データを事前にダウンロードしておくことをおすすめします。

比叡山は近畿圏の山の中でも人気が高く、連休や紅葉シーズン中は登山道・境内ともに混雑します。平日や早朝の出発は混雑を避けられるためおすすめです。延暦寺の修行や法要の日程によっては一部施設が立入制限になることもあるため、事前に公式サイトを確認しておきましょう。

まとめ 京都と滋賀をまたぐ霊峰・比叡山登山の魅力

比叡山は、標高848メートルという手ごろな高さながら、1200年以上の歴史を持つ延暦寺の精神的空間、整備された複数の登山ルート、京都と琵琶湖の双方を望む絶景、そして四季折々の豊かな自然を兼ね備えた唯一無二の山です。

京都側(修学院・八瀬)からも滋賀県側(坂本)からも公共交通機関で便利にアクセスでき、初心者から経験者まで楽しめるルートが揃っています。宗教的な雰囲気の中で歩く修行の道、古道の歴史を感じながら登る雲母坂、門前町の情緒あふれる坂本の街並み、さらには京都一周トレイルの一部としての縦走まで、登山という体験を超えた深い文化体験ができる山として、比叡山は国内屈指の価値を持っています。

紅葉の秋、桜咲く春、涼やかな夏、雪に包まれる冬と、どのシーズンに訪れても新しい発見と感動がある比叡山。日本仏教の母山を自分の足で歩く体験は、単なる登山を超えた特別な時間となるでしょう。京都と滋賀、二つの府県にまたがる霊峰の魅力を、ぜひその身で感じてみてください。

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