奥多摩の蕎麦粒山に日帰り登山、川乗橋発の周回コースを紹介

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奥多摩駅からバスで川乗橋か東日原まで入り、鳥屋戸尾根やヨコスズ尾根を登って山頂を踏むのが、蕎麦粒山への日帰り登山の基本的な行程です。標高1473メートルの山頂までは累積標高差800メートルから900メートルほどの登りが続き、初心者向けというよりも中級者向けのコースと考えたほうがよいでしょう。コースは大きく5パターンに分かれていて、最短の周回コースから川苔山まで足を延ばすロングコース、埼玉県側の仙元尾根から登るマイナールートまで、体力や経験に応じて選べるようになっています。アクセス方法や具体的なコースタイム、注意しておきたい熊や電波状況、服装の目安まで、日帰りで蕎麦粒山を歩くために知っておきたい情報をまとめました。

目次

蕎麦粒山は東京都と埼玉県境に立つ標高1473メートルの山

蕎麦粒山(そばつぶやま)は、東京都と埼玉県の都県境に位置する標高1473メートルの山です。日原川流域の奥まった場所にあるためアクセスがやや不便で、雲取山や鷹ノ巣山、川苔山と比べると訪れる登山者は少なめです。そのぶん、静かな山歩きを求める登山者から根強い支持を集めています。

山名の由来は山頂部の形にあります。山頂は小さいながらも形の良い二等辺三角形をしていて、この形が蕎麦の実によく似ていることから蕎麦粒山と名付けられたと考えられています。地図上でもとがった三角形のピークとして特定しやすい山容です。

山頂は東側が防火帯として切り払われているため視界が開けていて、好天時には奥多摩や奥秩父方面の山並みを一望できます。木々の葉が落ちる晩秋から新緑前の早春にかけては特に明るく、展望を楽しみながら休憩するのに向いています。

蕎麦粒山は単独で登られることもありますが、多くの登山者は周辺の山と組み合わせた縦走コースを歩いています。北側には東京都と埼玉県の境界をなす天目背稜(てんもくはいりょう)が延び、天目山(三ツドッケ)へつながります。南側には川苔山が控えていて、この二座を結ぶロングコースが奥多摩登山でも人気の高いルートです。

登山口へは奥多摩駅から西東京バスで川乗橋か東日原へ向かう

蕎麦粒山の登山口へは、JR青梅線奥多摩駅を起点にバスでアプローチするのが一般的です。奥多摩駅から西東京バスの日原鍾乳洞・東日原方面行きに乗車します。

主な登山口となるバス停は二つあります。一つは川乗橋(かわのりばし)バス停で、奥多摩駅からバスでおよそ15分、運賃は260円程度です。ここから鳥屋戸尾根(とやどおね)を登るルートが、蕎麦粒山への最短ルートとして知られています。もう一つは東日原(ひがしにっぱら)バス停で、川乗橋よりもさらに日原鍾乳洞方面へ進んだ先にあり、休日ダイヤではこちらが終点になっていることが多いようです。ここからは日原の集落を抜けてヨコスズ尾根を登り、一杯水(いっぱいみず)を経て天目山方面へ向かうのが定番のルートになっています。

バスの本数は多くないため、西東京バスの公式サイトや乗り換え案内アプリで時刻表を事前に確認しておきましょう。平日と休日でダイヤが異なることがあり、下山後の最終便時刻も必ずチェックしておきたいところです。

マイカーで訪れる場合、川乗橋周辺や東日原周辺には登山者向けの駐車スペースがあることがありますが、台数には限りがあります。休日の繁忙期は早朝到着を心がけるべきですし、周回コースを組む場合は起点と終点が異なることが多いため、東日原・川乗橋間を結ぶバスを利用して周回する計画のほうが現実的です。

日帰りコースは体力に応じて5パターンから選べる

蕎麦粒山を日帰りで楽しむコースには、大きく5つのパターンがあります。体力や経験、目的に応じて選びたいところです。

川乗橋から鳥屋戸尾根を登れば標高差800~900メートルの直登コースになる

もっとも直接的に蕎麦粒山を目指すのがこのコースです。川乗橋バス停から鳥屋戸尾根に取り付き、コース中盤で笙ノ岩山(しょうのいわやま)というピークを経由し、松岩の頭を越えて山頂に至ります。下山は往路を戻るか、天目背稜を経由して東日原へ下る周回ルートを組むこともできます。

登山口から尾根に取り付くまで、そして尾根上もしばらく急な登りが続く区間があり、標高差はおよそ800メートルから900メートルに達します。楽な部類の山ではなく、それなりの体力と経験が求められるコースです。

東日原からヨコスズ尾根・天目山を経由すると全長20キロメートルのロングコースになる

東日原バス停から日原の集落を通り抜け、ヨコスズ尾根に取り付きます。この尾根を登り詰めると一杯水避難小屋の付近に出て、その手前のヨコスズ尾根や先の天目山稜の尾根道は開放的で気持ちよく歩けると評判の区間です。

一杯水から天目山(三ツドッケ)に立ち寄って眺望を楽しんだ後、天目背稜をたどって蕎麦粒山へ縦走します。下山は山頂から南へ延びる鳥屋戸尾根を下り、途中で笙ノ岩山を経由して日原川沿いへ下り、川苔橋を経て奥多摩駅まで歩くか、日原方面のバス停から乗車します。

奥多摩駅を起点・終点とする場合、全長はおよそ20キロメートル、累積標高は登りでおよそ1740メートル、下りでおよそ2035メートルという、日帰り登山としてはかなりのロングコースになります。歩行のみのコースタイムはおよそ5時間30分程度とされていますが、休憩や写真撮影の時間を加味すると、実際には7時間から8時間程度を見込んでおくのが無難です。

川乗橋から蕎麦粒山・川苔山を縦走し鳩ノ巣駅へ下山するのは屈指のロングトレイル

奥多摩エリアでも屈指のロングトレイルとして知られるのがこのコースです。川乗橋バス停から鳥屋戸尾根を登って蕎麦粒山に登頂し、天目背稜を東へたどって日向沢ノ頭、踊平を経由し、川苔山へ縦走します。川苔山からは大根ノ山ノ神を経て鳩ノ巣駅へ下山します。

参考となるコースタイムの一例は次の通りです。川乗橋バス停を午前8時30分に出発し、笙ノ岩山に午前11時、松岩の頭に午前11時30分、蕎麦粒山に午後12時35分に到着して昼食休憩を取り午後1時5分に出発、日向沢ノ頭に午後1時40分、踊平に午後2時20分、川苔山に午後3時15分に到着して午後3時30分に出発、大根ノ山ノ神に午後5時10分、鳩ノ巣駅に午後6時10分に到着という行程です。総歩行距離はおよそ20キロメートル強に及びます。

このコースの特徴は、川苔山の標高自体は蕎麦粒山より低いにもかかわらず、途中でいくつかのピークを越えながら一度標高1150メートルほどまで下げてから登り返す必要がある点です。体力的にも精神的にも負担がかかりやすいため、日の短い時期は早朝出発を徹底し、日没前に下山を終えられるよう時間配分に注意したいところです。

初心者は天目山止まりのコースで距離を短縮できる

前述のロングコースは健脚向けなので、経験の浅い登山者や時間に制約のある登山者には、コースをコンパクトにまとめる選択肢もあります。例えば川乗橋バス停から鳥屋戸尾根で蕎麦粒山へ登り、天目山まで足を延ばした後に東日原へ下山するコースなら、川苔山まで縦走する場合に比べて歩行距離と時間を短縮できます。

いずれのコースを選ぶにしても、蕎麦粒山周辺は総じて標高差が大きく、なだらかな遊歩道のような山ではないことを念頭に置いて計画を立てる必要があります。

埼玉県側の浦山大日堂から仙元尾根を登るコースは上級者向け

ここまで紹介した4つのコースはいずれも東京都側の奥多摩駅を起点とするものでしたが、蕎麦粒山は埼玉県秩父市浦山側からもアプローチできます。秩父鉄道の浦山口駅や浦山大日堂バス停を起点に、仙元尾根をたどって仙元峠を越え、山頂へと至るルートです。

このコースはマイナールートに分類され、東京都側のコースに比べて歩く登山者はさらに少ないようです。仙元尾根の序盤は杉やヒノキの植林帯が続き、日中でも薄暗くひんやりとした空気に包まれる区間がありますが、稜線が近づくにつれて広葉樹林に植生が変わり、日差しの差し込む明るい雰囲気に変化していきます。登山道には落ち葉が積もって道形がわかりにくい箇所もありますが、要所にマーキングが設置されているため、地図読みの基本ができていれば大きく迷うことは少ないとされています。

仙元峠から蕎麦粒山にかけての稜線では、大持山・小持山方面や大ドッケ、有間山稜、天目山や大平山といった奥多摩・秩父境の山々を見渡せます。空気の澄んだ日には富士山が姿を見せることもあり、東京都側のコースとはまた違った角度からの展望を楽しめます。

浦山大日堂へは西武秩父駅や秩父鉄道浦山口駅からバスの便がありますが、本数は限られているため事前の時刻確認が欠かせません。日帰りでこのコースを歩く場合は、蕎麦粒山から東京都側の鳥屋戸尾根やヨコスズ尾根を下って奥多摩駅方面へ抜けるか、往路を戻って浦山側へ下山するかを、体力や交通の便を考慮して計画する必要があります。埼玉県側と東京都側を結ぶロングルートは健脚者向けで、初めて蕎麦粒山を訪れる登山者にはやや上級のコース取りといえます。

5つのコースを距離と累積標高で比べると難易度の違いがわかる

蕎麦粒山の日帰りコースは、起点や下山口の組み合わせによって難易度が大きく変わります。計画を立てる前に、5つのコースの特徴を並べて比較しておくと選びやすくなります。

コース起点下山口目安距離・標高差難易度の目安
川乗橋発、鳥屋戸尾根の直登・周回川乗橋川乗橋または東日原標高差800~900メートル中級
東日原発、ヨコスズ尾根・天目山縦走東日原奥多摩駅全長約20キロメートル、上り約1740メートル・下り約2035メートル上級
川乗橋発、川苔山縦走・鳩ノ巣下山川乗橋鳩ノ巣駅総歩行距離約20キロメートル強上級
天目山までのコンパクトコース川乗橋東日原縦走2コースより距離短縮中級
浦山大日堂発、仙元尾根浦山大日堂東京都側各所マイナールートでロング上級

歩行距離だけを見ると川乗橋発の周回コースが最も手頃ですが、標高差800メートル台の登りは決して軽くありません。時間に余裕があり天目背稜の稜線歩きを楽しみたいなら東日原発のコース、川苔山まで一気に歩き通したいなら鳩ノ巣下山のロングコースが候補になります。

一杯水避難小屋は緊急時の退避場所で水場の水量は年により変動する

東日原からヨコスズ尾根を登るコースの途中にある一杯水避難小屋は、天目山や蕎麦粒山方面へ向かう登山者にとって重要な目印であり、休憩ポイントとしても利用されています。避難小屋はあくまで緊急時の退避場所として維持管理されているもので、宿泊を前提とした施設ではありません。利用する際はマナーを守り、譲り合いの精神で使うようにしましょう。

小屋周辺の水場は季節や年によって水量が変化することがあるため、水場をあてにした行動計画は避け、必要な飲料水は登山口であらかじめ確保しておくべきです。最新の水場の状況は、直近の山行記録やヤマレコ、YAMAPといった登山記録共有サービスの現地レポートで確認できます。

蕎麦粒山の見頃は5月のシロヤシオと10月下旬からの紅葉

蕎麦粒山とその周辺のコースには、季節ごとに異なる魅力があります。

5月中旬から下旬にかけて、天目背稜や鳥屋戸尾根の尾根上ではミツバツツジやシロヤシオが咲きます。シロヤシオは白く清楚な花を咲かせるツツジの仲間で、新緑に映える白い花が稜線を彩る様子は多くの登山者を惹きつけています。開花状況は年によって前後するため、直近の山行記録やSNSでの現地報告を参考にタイミングを図りたいところです。

奥多摩の山々は10月下旬から11月にかけて紅葉のシーズンを迎えます。蕎麦粒山周辺のブナやミズナラ、カエデ類が色づき、稜線からの展望とあわせて美しい景色を楽しめます。落葉が進むと山頂からの見通しがさらに良くなり、遠く奥秩父の山並みまで見渡せることもあります。

山頂は東側が防火帯として開けていて、樹林に遮られることなく周囲を見渡せます。空気の澄んだ晩秋から冬、早春にかけては視界が良好で、富士山が望める日もあります。天目背稜の稜線歩き自体も開放感があり、樹林帯の中を黙々と登る区間とは対照的な尾根漫歩を楽しめます。

奥多摩の中でも石尾根や鷹ノ巣山、川苔山の百尋ノ滝コースは休日ともなれば多くの登山者で賑わいますが、蕎麦粒山やその周辺の天目山稜、ヨコスズ尾根、鳥屋戸尾根は比較的静かで、人混みを避けてゆったりと自然を楽しみたい登山者に向いています。

新緑期のシロヤシオや紅葉期の広葉樹を主題にするなら、稜線に日が差し込む午前中から昼過ぎにかけてが狙い目です。山頂での展望撮影は、空気の澄んだ晩秋から早春にかけて、雲の少ない早朝や午前中に訪れると遠くの山並みまでクリアに写せます。ただし日照時間の短い時期は下山時刻が早まるため、撮影に時間をかけすぎないよう行動計画とのバランスを取ることが大切です。

日向沢ノ頭と踊平は天目背稜縦走中の展望ポイントになる

蕎麦粒山から川苔山へ向かう天目背稜の途上には、日向沢ノ頭(日向沢ノ峰)と踊平という二つの特徴的な地点があります。日向沢ノ頭は多摩北端の都県境尾根上に立つピークのひとつで、南には川苔山へ続く尾根が延び、西側のピークからは有間山稜が北へ分岐するなど、複数の尾根が交差する地点です。この肩には広い防火帯が刻まれた開放的な区間が現れ、蕎麦粒山方面から続くこの防火帯を川苔山方面へ下っていくと、片斜面越しに南西側の展望が開け、正面に川苔山、右手には天目山などのピークを望めます。

踊平は、階段の踊り場のように尾根の途中にある小さなくぼ地(タルミ)を指す地名です。日向沢ノ頭から川苔山へ向かう縦走路の中間に位置し、ここを過ぎるといよいよ川苔山への最後の登り返しに入ります。稜線上には広々とした防火帯が続く区間もあり、桂谷ノ頭や日向沢ノ峰周辺では明るく開けた草原状の道を展望とともに楽しめます。送電線の鉄塔が立つ周辺は特に視界が開けていて、休憩ポイントとしても適していると多くの登山者が記録しています。

蕎麦粒山から川苔山へ続く天目背稜の縦走路は、樹林帯の中をひたすら登り下りするだけでなく、随所で防火帯や稜線特有の開放的な展望ポイントが現れるのが特徴です。長時間の行動になりがちなロングコースの中でも、気分転換となる区間が随所に用意されています。

登山道沿いのアセビ繁茂はシカの採食圧の強さを示す

鳥屋戸尾根をはじめとする蕎麦粒山周辺の登山道沿いでは、シカの生息数が多いエリアであることを示す植生の変化が見られる場所があります。シカは毒性のある成分を含むアセビという植物を好んで食べないため、シカの採食圧が強い場所ではアセビだけが目立って繁茂し、林床の下草が単調になっていく傾向があります。こうした景観は奥多摩に限らず、シカの食害が進んだ全国各地の山に共通して見られる特徴です。蕎麦粒山周辺を歩く際にも、林床にアセビが目立つ区間があればシカの影響を意識してみると、山の生態系の変化を感じ取る手がかりになるでしょう。

このほか、稜線上や樹林帯では野鳥のさえずりが聞こえることも多く、静かなコースであることも手伝って、耳を澄ませながら歩くと季節ごとの自然の変化を楽しめます。ツキノワグマの生息域でもあるため、野生動物との遭遇に備えた基本的な対策は怠らないようにしましょう。

蕎麦粒山の日帰り登山で注意すべきは電波不良と熊、道迷いのリスク

蕎麦粒山への登山コースは、奥多摩の中では中級者向けに位置づけられます。以下の点に留意して計画を立てたいところです。

どのコースを選んでも、登山口から尾根に取り付くまでの区間や尾根上の登りはそれなりに急で、累積標高差が800メートルから900メートル、ロングコースの場合は1700メートルを超えることもあります。日帰りとしてはハードな部類に入るため、日頃からの体力づくりと十分な行動時間の確保が欠かせません。日の出直後の早朝に出発し、山頂での昼食を挟んで午後は下山に専念できるよう、余裕のある日程を組むとよいでしょう。

天目背稜や鳥屋戸尾根の一部区間には、踏み跡が薄い箇所や分岐がわかりにくい箇所があります。地形図やGPSアプリを活用し、要所要所で現在地を確認しながら進むようにしてください。ガスや悪天候時は視界不良になりやすい稜線でもあるため、無理をせず引き返す判断も重要です。

天目山稜のほとんどの区間では、携帯電話の電波は入らないか、入ったとしても不安定になりがちです。緊急時の連絡手段が確保しにくいエリアであることを念頭に置き、事前に地図やコースタイム、バス・電車の時刻表をオフラインでも確認できる状態にしておきましょう。

川苔山を含む奥多摩のこのエリアはツキノワグマの生息域で、過去には登山者が襲われる事故も報告されています。熊鈴を携行し、単独行動時は特に音を立てて自分の存在を知らせ、早朝や薄暮時の行動には注意するなど、基本的な熊対策を徹底してください。

稜線上や登山道の途中には水場やトイレが限られている、あるいは整備状況が変化する可能性があるため、事前の情報収集と十分な量の飲料水の携行が欠かせません。一杯水避難小屋付近など、水場の有無や状態は最新の山行記録で確認しておくと安心です。

服装と持ち物は雨具とヘッドライト、熊鈴が必須

蕎麦粒山を含む奥多摩の縦走コースは標高差が大きく、行動時間も長時間に及ぶことが多いため、日帰り登山とはいえ本格的な装備を整えておきたいところです。

岩場や滑りやすい斜面、落ち葉の積もった道もあるため、グリップの良いソールを備えた防水性の登山靴が向いています。気温の変化や汗冷え対策として、速乾性のインナーと保温着、防風・防水のアウターを重ね着できるようにしておきましょう。雨具は上下セパレートタイプを用意し、地図は登山地図やコンパス、あるいはGPSアプリを入れたスマートフォンとモバイルバッテリーを携行します。十分な量の飲料水と行動食も欠かせません。

ヘッドライトを携行していないと、予定より下山が遅れた際に真っ暗な山道を歩くことになります。熊鈴やホイッスル、救急セットや保温シートといった非常用装備、長時間の登り下りで足腰の負担を軽減するトレッキングポールも用意しておくと安心です。特にロングコースを歩く場合は、日没時刻を意識した行動計画とヘッドライトの携行が安全確保に直結します。

登山届の提出と早出早着の徹底が安全確保の基本

蕎麦粒山周辺のコースは携帯電波が入りにくく、道迷いや道の状況変化のリスクもある山域であるため、登山届(登山計画書)の提出を習慣づけておきたいところです。登山届には登山者の氏名や連絡先、入山日、下山予定日、コース概要などを記載します。奥多摩エリアの場合、JR青梅線の各駅や奥多摩ビジターセンターに提出箱が設置されているほか、オンラインで登山計画書を提出できるサービスも普及しているので、出発前にあらかじめ提出しておきましょう。登山口そのものには提出箱がないケースが多いため、駅や自宅を出る前に済ませておく必要があります。

出発前には最新の気象情報を確認し、無理のないスケジュールを組むことが基本です。山の天気予報に特化した気象情報サービスを活用し、稜線上の風の強さや雨雲の動きも踏まえて、天候が悪化しそうな場合は計画の変更や中止も選択肢に入れておきましょう。

熊の出没情報についても、東京都環境局が公開している目撃情報や、奥多摩町が提供している熊に関する報告サービス、奥多摩ビジターセンターの案内などを事前にチェックしておくと安心です。近年は目撃情報が寄せられる年もあり、季節や年によって状況が変わるため、直前の最新情報を確認する習慣をつけておくとよいでしょう。

早出早着の原則も忘れてはなりません。蕎麦粒山周辺のコースは日帰りであっても行動時間が長くなりがちで、遅くとも午前9時頃までには登山口となるバス停や駐車場に到着し、行動を開始することが望ましいとされています。日没時刻から逆算して下山完了時刻の目標を立て、その目標から出発時刻を決めるという計画の立て方を徹底すれば、道中でのトラブルにも余裕を持って対応できます。

仙元峠は富士山信仰と日原鍾乳洞参拝の道として使われてきた

蕎麦粒山の少し西側、天目背稜上にある仙元峠は、単なる通過点ではなく、古くからの信仰と歴史を伝える場所です。一般的な峠が尾根の鞍部(低くなった部分)にあるのに対し、仙元峠はピーク上にあるという珍しい地形をしていて、かつては仙元嶺とも呼ばれていました。峠の名は浅間(せんげん)に通じるもので、地元の村民がこの地に祠を祀り、富士山の御神体である木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)を祀ったことに由来するとされています。

江戸時代までは、富士山への信仰登拝である富士詣りや、日原鍾乳洞への参拝といった信仰・交易のために、多くの人々がこの仙元峠を越えて往来していたそうです。当時は峠から奥多摩側の展望が大きく開けていて、体力や脚力に自信のない参拝者は、この峠から富士山の姿を拝んで引き返すこともあったと伝えられています。明治時代以降になると、細久保から一杯水の東側へ抜けるルートのほうが日原への近道として重宝されるようになり、次第に仙元峠を越える道は利用者が減っていきました。現在、蕎麦粒山や仙元峠を訪れる登山者は、こうした往時の信仰の道の名残をたどっていることになります。

登山口となる日原の集落にも興味深い歴史があります。日原は、室町時代に戦乱を避けてこの地に移り住んだ武蔵七党のひとつ丹党に属する人物によって開拓されたと伝えられる山あいの集落です。地名の由来には諸説あり、山あいのわずかな平地を指す一原(いちはら)がなまって「にっぱら」になったという説や、開拓者が属していた丹党の丹の字の読みに由来するという説などが伝わっています。日原鍾乳洞が古くから大日如来の聖地として信仰を集めたことから、日という漢字が地名に宛てられたともいわれています。こうした歴史的背景を知ったうえで日原の集落を通り抜けると、単なる登山口としてだけでなく、山岳信仰と人々の暮らしが結びついてきた土地としての奥行きを感じられるはずです。

下山後はもえぎの湯で汗を流し奥多摩駅へ戻れる

奥多摩駅周辺には日帰り入浴施設や食事処があり、下山後に汗を流してから帰路につけます。奥多摩駅から徒歩10分ほどの場所にある奥多摩温泉もえぎの湯は登山者に人気の入浴施設で、疲れた体を癒すのに向いています。営業時間は季節によって異なり、4月から11月は午前10時から午後8時まで(受付終了は午後7時)、12月から3月は午前10時から午後7時まで(受付終了は午後6時)で、月曜日(祝日の場合は翌日)が定休日です。利用時間は3時間制で、料金の目安は大人1050円程度です。天候や混雑状況によって営業時間が変更になることもあるため、訪問前に最新情報を確認しておきましょう。鳩ノ巣駅方面へ下山した場合も、奥多摩駅までは電車でのアクセスが容易なので、下山後の移動もスムーズです。

奥多摩エリアには川苔山の百尋ノ滝や日原鍾乳洞など、他の観光スポットも点在しています。時間や体力に余裕があれば、蕎麦粒山登山とあわせてこれらのスポットを訪れる登山者も多いようです。

蕎麦粒山は標高1473メートル、東京都と埼玉県の境に位置する山で、頂上部の形状が蕎麦の実に似ていることからその名がつきました。日帰りコースは、川乗橋から鳥屋戸尾根を登るコース、東日原からヨコスズ尾根・天目山を経て縦走するコース、蕎麦粒山から川苔山まで足を延ばすロングコースなど、体力や目的に応じたバリエーションが用意されています。特に天目背稜を絡めたコースは、都県境の稜線をたどる開放的な尾根歩きが楽しめる点で人気が高いといえます。

累積標高差の大きさや電波の入りにくさ、熊の生息域であること、道迷いのリスクを踏まえると、初心者だけで気軽に踏み込むにはハードルのある山域でもあります。事前の情報収集と装備の準備、余裕を持った行動計画を徹底したうえで、シロヤシオの咲く新緑の季節や、視界の開ける晩秋から早春にかけての時期を狙って訪れれば、蕎麦粒山ならではの静かで奥深い山歩きの魅力を味わえるはずです。

登山届の提出、天気予報や熊出没情報の事前チェック、早出早着の徹底といった基本を押さえたうえで、自分の体力や経験に見合ったコースを選ぶことが、蕎麦粒山を安全に楽しむための一番の近道です。

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