聖岳は、長野県と静岡県の境にそびえる標高3013メートルの山で、南アルプスに連なる3000メートル峰の中では最も南に位置します。日本百名山の一座に数えられ、深田久弥も屋根のような堂々とした山容を高く評価しました。前聖岳と奥聖岳からなる双耳峰が特徴で、山頂に立てば赤石岳や富士山までを望む大展望が広がります。今回は、聖岳から百間洞山の家へと続く夏のテント泊縦走を軸に、南アルプス南部ならではのアクセス方法やコースタイム、山小屋の営業状況、天候の注意点、必要な装備までをまとめました。長いアプローチゆえに訪れる登山者は北アルプスの人気ルートより少なく、静かな稜線歩きを味わえるのもこの山域の持ち味です。

標高3013メートルの聖岳は南アルプス最南端の3000メートル峰
聖岳は南アルプス国立公園内にあり、赤石岳や悪沢岳と合わせて南アルプス南部三山と呼ばれることもある山です。山頂からは赤石岳をはじめとする3000メートル級の峰々に加え、天候に恵まれれば富士山までくっきり見渡せます。前聖岳(3013メートル)と奥聖岳(2978.7メートル)の間は片道15分から20分ほどで、時間に余裕があれば両方の山頂を踏み比べてみる価値があります。聖平から東峰・西峰にかけての稜線にはヒメイワカガミやコケモモ、イワベンケイなど約20種の高山植物が自生し、2026年7月27日時点はちょうど残雪が消えた適期にあたるため、稜線のお花畑も見頃を迎えています。秘境と呼ばれるだけあってアプローチは長く、日帰りでの登頂はほぼ不可能で、多くの登山者は山中で1泊以上のテント泊か小屋泊を組み合わせて計画を立てます。
登山口は便ヶ島・易老渡・芝沢ゲートの3か所から選べる
聖岳への主要な登山口は、長野県飯田市側の便ヶ島(たよりがしま)と易老渡(いろうど)です。マイカーの場合、中央自動車道飯田インターチェンジから県道83号や国道152号を経由して便ヶ島まで約74キロメートル、国道152号から易老渡までの林道区間は約20キロメートルで車で40分ほどかかります。便ヶ島は易老渡からさらに2キロメートル先にあり、車でおよそ8分です。林道の状況によっては車両の通行規制がかかることがあり、その場合は芝沢ゲートに駐車場が設けられます。芝沢ゲート駐車場は30台から40台ほど停められる無料駐車場で、そこから易老渡まで徒歩約90分、便ヶ島まではさらに30分ほど歩く必要があります。便ヶ島駐車場は聖光小屋の前にあり約30台分のスペースがある無料駐車場ですが、車中泊には1人500円の協力金が必要です。
便ヶ島の聖光小屋は2026年10月12日まで営業中
便ヶ島には聖光小屋があり、トイレや水場が整っているほか、隣接する便ヶ島森林公園のキャンプ場でもテント泊ができます。テント泊の料金は500円で予約は不要ですが、小屋泊を希望する場合は1週間前までの予約が必要です。2026年の営業期間は4月26日から10月12日までで、7月27日時点はすでに営業中ですが、予約のない日には管理人が不在になることもあるため、事前に電話で状況を確認しておくと安心です。連絡先は小屋常設の衛星電話090-7027-2645、または管理人携帯090-9353-0104です。なお、便ヶ島から西沢渡間の登山道は災害復旧工事のため通行できない期間があるとの情報もあり、南アルプス南部は近年の台風や豪雨で登山道の崩壊や橋の流出が相次いでいるため、出発前には最新の道路情報と登山道情報を必ず確認してください。
主要ルートのコースタイムとグレーディングは5段階中3から4
聖岳への代表的なルートは、便ヶ島や易老渡を起点に西沢渡、薊畑分岐を経て聖平小屋に至り、そこから山頂を目指すコースです。信州・山のグレーディングでは、聖光小屋からのルートは5段階中3、聖光小屋や椹島を利用して赤石岳まで縦走するルートは5段階中4とされ、体力・技術ともに中級から上級者向けの山であることがわかります。小聖岳からはガレ場の痩せ尾根を通過する区間があり、前聖岳の基部からは崩れやすく不安定な広大なガレ斜面の登りが始まります。聖光小屋ルートにはハシゴやくさり場、雪渓や渡渉箇所もあり、転落や滑落の事故が起こりやすいポイントです。縦走路に入るとさらに厳しい岩稜帯や不安定なガレ場が続くため、経験の浅い登山者だけのパーティーは避け、天候判断や撤退判断ができるリーダーとともに入山することが望ましいでしょう。
静岡側の椹島ロッジからは標高差1900メートルを登る
椹島(さわらじま)ロッジを起点とするルートも広く利用されています。椹島ロッジの標高は1100メートルで、聖岳山頂3013メートルまでは標高差にしておよそ1900メートルを登ることになります。椹島ロッジから聖平小屋までのコースは標高差1665メートル、聖平小屋から茶臼小屋までのコースは標高差1625メートルにも及び、いずれも1日の行動としてはかなりの体力を要します。2泊3日で歩くモデルコースは、1日目に椹島ロッジから聖平小屋まで約5時間30分、2日目に聖平小屋から聖岳を経由して茶臼小屋まで約9時間20分、3日目に茶臼小屋から沼平まで約4時間30分という行程です。健脚者向けのコースであり、余裕のある日程を組むことが強く勧められます。
椹島への送迎バスは7月11日から運行中、9月24日以降は当日乗車も可能に
椹島へと続く東俣林道は冬期閉鎖され、開通期間中も一般車両の通行が禁止されているため、マイカーの場合は畑薙の夏季臨時駐車場や沼平ゲート前に車を停め、椹島ロッジ利用者向けの送迎バスに乗り換えるのが一般的です。送迎バスは例年7月11日から10月12日にかけて運行され、7月27日現在は事前予約制で利用できます。乗車には椹島ロッジや山小屋の宿泊予約と合わせた手配が必要ですが、9月24日から10月9日の期間だけは事前予約制をとらず、当日直接の乗車が可能になる予定です。南アルプス一帯のマイカー規制では、路線バスやタクシーの利用者に対し通行1回につき300円の協力金が求められています。
聖沢登山口から聖平小屋までは標準コースタイム5時間10分
椹島ロッジから聖岳を目指す場合、聖沢登山口(東俣林道沿い)を起点とするルートが代表的です。椹島ロッジから聖沢登山口、出会所小屋跡、聖沢吊橋、造林小屋跡を経て岩頭滝見台、聖平小屋、薊畑分岐を通り、小聖岳を経由して聖岳山頂へ至ります。標準コースタイムは聖沢登山口から聖平小屋まで約5時間10分、聖平小屋から前聖岳まで約2時間15分で、合計するとおよそ7時間25分の行程です。登山口からいきなり急登が続いて出合所小屋跡に至り、そこから1時間ほど歩くと聖沢吊り橋に出ます。吊り橋を渡り切ると再び急登となり、ガレ場や急斜面の尾根を越えて聖平小屋にたどり着きます。危険箇所としては岩頭滝見台から慰霊碑にかけてのトラバース区間が挙げられますが、全体としては登山・トレッキングの初心者でも計画次第で挑戦しやすいルートとされています。聖岳は往復だけでも標高差が3000メートル近くに及ぶため、どのルートを選んでも日帰りでの登頂は基本的に困難です。マイカーやタクシーで畑薙方面から入る場合も、そこから先は椹島ロッジまで歩くか、井川観光協会が運行する登山バスを利用する必要があり、事前に交通機関の運行状況を確認して余裕を持ったスケジュールを組んでおきましょう。
稜線を彩る兎岳・中盛丸山・大沢岳の3ピーク
聖岳から百間洞へと向かう稜線には、兎岳、中盛丸山、大沢岳という個性的なピークが連続しています。兎岳は標高2818メートルで赤石岳と塩見岳の間、南アルプスの主稜線上に位置し、山頂付近はハイマツ帯に覆われています。中盛丸山は標高2807メートルで、兎岳と同じく主稜線上にあり、どっしりとした丸みを帯びた山容が特徴です。大沢岳は百間洞山の家から登り約1時間20分、そこから中盛丸山までは約40分という記録もあり、日帰りでも周回しやすい距離感にあるピークです。これらのピークが連なる稜線は森林限界を超えた岩稜帯が多く、強風にさらされやすい区間としても知られています。ライチョウの生息地でもあるハイマツ帯を抜けながら歩くこの稜線歩きは、南アルプス南部縦走のハイライトのひとつです。天候さえ味方につければ赤石岳や聖岳、遠くは富士山までを望む展望を楽しめますが、視界不良や強風時には道迷いや転倒のリスクが高まる区間でもあるため、無理をせず天候判断を優先することが大切です。
前聖岳から百間洞山の家までは大沢岳経由で7時間50分
聖岳登山の醍醐味のひとつが、赤石岳や兎岳、中盛丸山、大沢岳を経て百間洞山の家へと続く縦走路です。前聖岳から百間洞山の家までは、大沢岳経由で標準コースタイムおよそ7時間50分とされ、百間洞山の家から赤石岳までは約2時間20分の行程です。この区間はナキウサギの生息地としても知られる岩場を抜け、兎岳、小兎岳、中盛丸山、大沢岳と続く稜線を辿って百間洞へ下るルートで、兎岳や中盛丸山の下部には急な下りが連続するため、3日程度の日程で計画するのが一般的です。
3泊4日で赤石岳と聖岳を結ぶモデルコース
椹島を起点とした3泊4日の代表的なモデルコースは次のような構成になります。1日目は椹島ロッジから東尾根を登り赤石小屋へ向かい、総コースタイムはおよそ4時間です。2日目は赤石岳の山頂を踏んでから百間洞山の家へ向かい、総コースタイムはおよそ4時間45分です。3日目は中盛丸山や兎岳などの稜線を縦走し、聖岳を経て聖平へ下り、総コースタイムはおよそ7時間35分の長丁場です。4日目は聖沢沿いに下って椹島へ下山し、総コースタイムはおよそ4時間20分となります。
日程の組み方によって総歩行時間は大きく変わり、代表的なパターンは次のとおりです。
| 行程パターン | 総歩行時間の目安 |
|---|---|
| 1泊2日で往復 | 約14時間35分 |
| 3泊4日で縦走 | 約20時間30分 |
| 3泊4日で周回 | 約23時間45分 |
いずれのプランでも1日あたりの行動時間が長くなりがちで、日の長い夏山シーズンであっても早出早着を徹底し、無理のない日程を組むことが安全登山の基本になります。
百間洞山の家のテント場は1人2000円で約20張分
百間洞山の家のテント場は約20張ほどのスペースがあり、幕営料は1人2000円で、予約制ではなく当日受け付けとなっています。聖岳から赤石岳への縦走路上にある樹林帯の中の山小屋で、名物の「とんかつ」が夕食に提供されることで多くの登山者に親しまれています。2026年は改修工事の影響で小屋泊の受け入れは7月11日から8月31日までとなっており、2026年7月27日時点はこの期間内にあたるため宿泊も利用できますが、9月以降は工事が終わるまでテント泊と物品販売のみの営業に切り替わる見込みです。水場は小屋から少し離れた沢からホースで引いており水量は豊富で飲料水として利用できます。食事は自炊が基本ですが、天候の急変や体調不良に備えてレトルト食品やカップ麺の販売もあります。9月以降は工事終了までスタッフが駐在し、荒天時の緊急避難の受け入れには対応してもらえますが、緊急避難以外の宿泊対応は行っていない点には注意が必要です。
登山適期は7月上旬から10月下旬、お花畑の見頃は7月から8月上旬
聖岳の登山適期は残雪がほぼなくなる7月上旬から10月下旬頃までとされ、雪のないシーズンとしては6月から10月頃までが目安です。7月中旬から下旬にかけては山頂付近のお花畑が見頃を迎え、シナノキンバイの黄色い花やニッコウキスゲ、ハクサンイチゲの白い花、コイワカガミのピンクの花など、高山植物が稜線を彩ります。特に前聖岳と奥聖岳の間に広がるお花畑は7月から8月上旬にかけて見応えがあるとされ、2026年7月27日はこの見頃の期間と重なります。秋になると9月上旬から10月中旬にかけてナナカマドやミネカエデが色づき、稜線を赤や黄色に染めるため、夏のテント泊縦走であれば花のシーズンに合わせて計画することで稜線歩きの楽しみがさらに広がります。
標高2000メートルを超えたら高山病対策を意識する
標高3000メートル級の山を巡る聖岳から百間洞への縦走では、高山病への配慮も欠かせません。高山病は標高が高く酸素濃度の低い場所へ急激に移動した際に起こりやすい症状で、一般に標高2000メートルを超えるあたりから発症のリスクが高まり、3000メートルを超える稜線では特に注意が必要です。登山口や最初の宿泊地に到着した後、行動を開始する前にある程度その場に留まり、身体を高度にゆっくり慣らすことが対策として有効です。前日の睡眠不足や体調不良、飲酒は高山病のリスクを高める要因とされているため、入山前からの体調管理も重要なポイントになります。聖岳から百間洞への縦走は行動時間が長く標高差も大きいコースであるため、初日から無理に標高を稼ぐのではなく、聖平小屋や聖光小屋などで一度体を慣らしてから先へ進む計画を立てると、高山病のリスクを抑えながら余裕を持って縦走を楽しめます。頭痛や吐き気、倦怠感といった症状が出た場合は、無理に行動を続けず標高を下げる、休息を取るなどの対応を早めに取ることが重要です。
聖平小屋は2026年9月23日まで営業、テント泊は予約不要
縦走の起点や合流点となることが多い聖平小屋も、聖岳登山では欠かせない拠点です。2026年シーズンは7月11日から9月23日までの営業予定で、2026年7月27日時点ではすでに営業しています。小屋泊のみ事前予約が必要で、テント泊は予約不要です。聖平小屋前のテント場は広々としており、トイレや水道が整備されているため、南アルプスの山小屋の中でも比較的快適にテント泊ができる場所として知られています。花のシーズンである夏には、テント場周辺のお花畑も見どころのひとつです。
聖岳という名前は聖沢の地形に由来する
聖岳(ひじりだけ)という山名は、南東側を流れる聖沢が肘を曲げたような形をしていることから「ひじ折る」あるいは「へずり」という言葉が転化したものとされています。別名として「日知ヶ岳(ひじりがたけ)」とも呼ばれます。南アルプス南部の3000メートル峰としては最南端に位置する山で、静岡市葵区と長野県飯田市の境界にまたがっています。こうした山名の由来を知った上で歩くと、聖沢沿いのルートや聖平、聖光小屋といった周辺の地名にもより親しみを感じられます。聖光小屋、椹島ロッジ、百間洞山の家、聖平小屋といった山小屋の存在があってこそ、水場やトイレ、緊急時の避難場所が確保されていることを踏まえながら、テント泊縦走を楽しみたいところです。
南アルプス南部の夏は午後3時から6時に天候が崩れやすい
南アルプス南部の夏山は、午前中は晴れていても午後になると天候が崩れやすいという特徴があります。夏の晴天時には内陸部の気温上昇によって上昇気流が発生し、天気図には現れない小規模な低気圧、いわゆるヒートローが発生しやすくなります。朝のうちは晴れているものの昼頃から雲が上がり始め、尾根では雲が厚くなって雨や雷を伴うことが多く、降水のピークは午後3時から6時頃で、標高の高い場所ほど天候の崩れが早く始まる傾向があります。日本海側を低気圧が通過する場合には、南アルプスへ向かう南風が地形の影響で雲を発生させやすく、平地以上に強風が吹き荒れて行動が困難になることもあります。南アルプス南部での夏山登山では、午後からの行動をできるだけ控え、稜線上の危険地帯は午前中の早い時間に通過し終える計画を立てることが求められます。特に聖岳から百間洞への稜線や兎岳、中盛丸山周辺は森林限界を超えた岩稜帯を長く歩くため、落雷のリスクが高いエリアです。近年は台風の影響による登山道の崩壊や橋の流出が相次いでおり、聖岳周辺のルートでも通行止めや迂回が発生することがあります。出発前には各自治体や山小屋、南アルプス関連の公式サイトなどで最新の登山道状況を確認し、いつも以上に余裕を持った計画を立てることが重要です。予定通りに歩けない場合に備え、エスケープルートや撤退の判断基準もあらかじめパーティー内で共有しておくと安心です。
テント泊装備は軽量化と防寒・防雨対策を両立させる
聖岳のような標高3000メートル級のテント泊縦走では、荷物の軽量化と防寒・防雨対策の両立が求められます。シュラフはテント泊登山用の軽量でコンパクトなものを選び、3シーズン用や夏用の中から気温に合わせて選択します。マットはシュラフの下に敷いて地面の凹凸をやわらげ、地面からの冷気を防ぐ役割があり、空気を注入するタイプとジャバラやロール状のタイプがあります。標高の高い稜線では夏でも朝晩は冷え込むため、防寒着や薄手のダウンなども準備しておくと安心です。テント泊は荷物が重くなるため、登山靴はソールが硬く足首をしっかり保護してくれるハイカットタイプが向いています。レインウエアは上下セットで必ず携行し、突然の雨で身体が濡れると低体温症のリスクが高まるため、防水性と透湿性を備えたものを選びましょう。調理道具としてはバーナー、ガスカートリッジ、コッフェルなどが必要で、百間洞山の家のテント泊は自炊が基本となるため食料と燃料は日数分をしっかり計算して持参する必要があります。登山用バックパックは40リットルから70リットル程度の容量が目安となり、スタッフバッグやドライバッグを使って衣類やギアを整理し、ジップロックなどで食材やゴミを密封しておくとパッキングの効率が上がります。荷物が重くなりがちなテント泊縦走だからこそ、行動中に必要なものと山小屋やテント場でのみ使うものを分けて収納しておくと、休憩や幕営の際の動作がスムーズになります。
ツキノワグマの目撃情報がある区間では音を出して歩く
南アルプス一帯には「南アルプス地域個体群」と呼ばれるツキノワグマが生息しており、3000メートル級の山岳地帯から標高1000メートル以下の低山まで広範囲に姿を見せることが知られています。特に早朝や夕暮れの時間帯はクマの活動が活発になるため、便ヶ島や聖平小屋周辺の樹林帯を歩く際にはベルやラジオなどで自分の存在を知らせながら歩くと安心です。もし足跡やクマ剥ぎといった痕跡を見つけた場合は、その場から静かに引き返す判断も大切です。万一クマと遭遇した場合、距離が50メートル以上あれば音を立てずに落ち着いて反対方向へ移動し、距離が近い場合は刺激しないよう背中を見せずにゆっくり後ずさりすることが基本的な対処法とされています。
道に迷ったら開けた尾根まで引き返して救助を待つ
聖岳では、過去に稜線から沢へ大きく滑落し、長時間にわたって救助を待つことになった事故事例も報告されています。下山時には足腰の疲労がたまり転倒や滑落のリスクが高まることが知られており、特に痩せた稜線や岩場、ガレ場を通過する際には気を緩めず、ゆっくり慎重に足を運ぶことが求められます。もし正規の登山道を見失ってしまった場合は、そのまま不明瞭な道を下り続けるのではなく、確実にわかっている地点まで引き返すのが鉄則です。それでも道が分からない場合は、木々のない開けた場所や尾根など、上空や周囲から発見されやすい場所で体力を温存しながら救助を待つことが推奨されています。事故が発生した直後は落石や再滑落など第二、第三の危険が起こり得るため、まずは安全な場所へ移動することを最優先に考えましょう。聖岳から百間洞にかけての縦走路は長い行動時間と厳しい地形が続く分、事前の情報収集と装備、そして無理のない判断力が安全登山の鍵を握ります。登山計画書を提出し、家族や職場など周囲に日程を共有しておくことも、万一の際の早期発見につながる基本的な備えです。
テント場では夜20時から21時の消灯後は静かに過ごす
複数の登山者が同じテント場を共有する縦走では、マナーへの配慮も欠かせません。日が沈み始めたら周囲は静かに過ごし、夜の20時から21時頃には就寝するのが一般的なマナーです。テントの生地は薄く、小声であっても隣で眠る登山者には響いてしまうため、夜間の会話や物音には注意しましょう。ゴミは一片たりとも山に残さないことが大原則で、ゴミ袋の口をしっかり結び、風で飛ばされないようバックパックの中にしまって管理してください。水場に他の利用者が並んでいる場合は、長時間占有せず譲り合って使うことも大切なマナーです。南アルプス南部では山小屋にトイレがない、あるいは携帯トイレのみ対応というテント場もあり、事前に各山小屋の設備を確認しておくと安心です。携帯トイレを携行し、使用後は指定された回収場所に出す、あるいは自分で持ち帰るという意識を持って行動しましょう。
登山計画書は長野県側の阿南警察署か静岡県警察本部へ
聖岳は長野県と静岡県の県境に位置する山であるため、登山計画書の提出先も両県にまたがります。大沢岳や兎岳、聖岳、上河内岳、光岳方面へ向かう場合、長野県側の阿南警察署や南信濃村支所への提出が案内されています。静岡県側からは静岡県警察本部地域課への提出も可能です。近年は長野県警が推進するオンライン提出サービス「コンパス」なども利用でき、個人情報の保護と迅速な救助活動の両面から、紙の計画書だけでなくオンラインでの提出も積極的に活用することが勧められています。長期の縦走になるほど、計画書の提出と家族・職場への共有は万一の際の生命線になります。
早朝出発が聖岳と百間洞の展望を引き出す一番の近道
聖岳から百間洞へと続く縦走路は、南アルプス南部ならではの雄大な稜線歩きと、山小屋やテント場での温かいひとときの両方を味わえるコースです。長いアプローチと標高差、岩稜帯やガレ場といった難所があるため決して簡単な山行ではありませんが、その分、山頂から望む富士山や赤石岳の大展望、稜線を彩る高山植物、百間洞山の家の名物とんかつなど、苦労した先にしか出会えない魅力にあふれています。聖岳の山頂からの展望はガスの発生状況によって大きく左右され、夏山では午前中のうちは晴れていても昼を過ぎると稜線に雲が上がりやすくなる傾向があります。聖平小屋やテント場を早朝に出発し、できるだけ早い時間帯に前聖岳や奥聖岳の山頂に立つことが、大展望に出会える可能性を高めるコツです。テント泊であれば日の出前後の澄んだ空気の中を歩く早朝行動がしやすく、稜線歩きと展望の両方をより楽しみやすいのも魅力のひとつです。夏の南アルプス南部は午後からの天候急変や落雷のリスクが高く、近年は台風などによる登山道の被害も報告されています。事前に最新の登山道情報と山小屋の営業状況を確認し、早出早着を徹底した無理のない日程を組むこと、そして万一に備えた装備と撤退の判断基準を用意しておくことが、この縦走路を安全に楽しむための鍵となります。便ヶ島や易老渡、椹島など複数の登山口とルートの組み合わせを検討しながら、自分の体力やスケジュールに合った計画を立てて、聖岳と百間洞をめぐる夏のテント泊縦走に挑んでみてください。登山口までのアクセス、山小屋やテント場の営業状況、林道やマイカー規制の情報は年によって変わることがあります。出発直前まで公式サイトや現地の最新情報をこまめにチェックし、余裕のある日程と装備で、聖岳から百間洞へと続く南アルプス南部ならではの静かで奥深い稜線歩きを満喫してください。







