このページにはAI画像を使用しています。
夕張岳は、北海道夕張市にそびえる標高1,668mの山で、花の百名山のひとつです。ユウバリソウとユウバリコザクラという2つの固有種が咲くのは、主に6月中旬から下旬です。これほど花が多いのは、登山道に転がる青緑色の石、蛇紋岩がつくるやせた土壌のためです。
ただし、花の咲き具合も登山道の様子も、年によって変わります。

夕張岳の固有種ユウバリソウとユウバリコザクラは6月中旬から下旬が見頃
夕張岳を代表する2つの固有種、ユウバリソウとユウバリコザクラの花期は、6月の中旬から下旬が中心です。
ユウバリコザクラは標高約1,400m、ユウバリソウは標高1,500mの吹き通しに咲く
2つの花は、咲く場所が少しずれています。登っていくと先に現れるのが、標高約1,400mの蛇紋岩崩壊地です。ここでは、ユウバリコザクラが木道のすき間に身を潜めるように花を開いています。
そこからさらに100mほど高度を上げると、標高1,500m付近の吹き通しに出ます。ユウバリソウがまとまって群落をつくるのは、この場所です。
2021年は6月19日、2026年は6月24日に花を確認
年ごとの記録を並べると、開花の幅がつかめます。2021年は6月19日の入山で、蛇紋岩崩壊地と吹き通しの両方で2つの固有種が咲いていました。
2026年は、6月24日の登山記録にユウバリソウとユウバリコザクラが登場します。ただ、記録を残した登山者は、その週で盛りが終わりそうだと感じていました。
盛りの時期は、年や天候によって前後にずれます。出かける前に、直近の山行記録や夕張岳ヒュッテなどから新しい情報を得ておくと安心です。
夏の花はユウバリリンドウとアケボノソウ
夏に咲く花もあります。2018年8月3日の記録では、蛇紋岩崩壊地から吹き通しにかけての区間でユウバリリンドウが咲いていました。同じ区間では、アケボノソウも夏に花をつけます。
登山者の記録に残る花はエゾハクサンイチゲやミヤマオダマキなど
固有種のほかにも、登山者の記録には多くの花の名前が出てきます。ユウバリアズマギク、エゾハクサンイチゲ、ゴゼンタチバナ、コミヤマカタバミ、ミヤマオダマキがその例です。
夕張岳に花が多い理由は、養分の乏しい蛇紋岩の土壌
夕張岳を花の山にしたのは、蛇紋岩という岩です。雪解け水に洗われて青緑色に見える登山道の石が、その蛇紋岩にあたります。
蛇紋岩はマグネシウムを多く含む反面、植物の養分になるカリウムやカルシウムをわずかしか持っていません。このやせた土に合わせて生きられる種だけが根を張り、特殊な植生をつくりました。
蛇紋岩はカンラン岩が水と反応してできた岩石
蛇紋岩のもとは、地下深くにあるカンラン岩です。カンラン岩は、おもにカンラン石でできた、マグネシウムの多い超塩基性の深成岩を指します。
このカンラン岩に水が加わり、地表へ向かって上がってくるあいだに蛇紋岩へ変わります。変化が起きるのは主にカンラン石で、水と反応して蛇紋石と磁鉄鉱ができます。この反応は蛇紋岩化作用と呼ばれます。こうしてできるのが、蛇紋石を主な鉱物とする超塩基性岩、つまり蛇紋岩です。
蛇紋岩化の進み具合は、岩体によってまちまちです。カンラン岩体から周りの蛇紋岩体に向かって、少しずつ蛇紋岩化が強まっていく例もあります。
蛇紋岩変形植物と氷期の遺存種が夕張岳の植物群落を特徴づける
夕張岳の高山植物群落は、蛇紋岩の超塩基性の成分と結びついた非常に珍しい蛇紋岩変形植物や、氷河期から生き残ってきた遺存種などで特徴づけられます。夕張岳だけに自生する固有種としては、ユウバリコザクラのほか、エゾノクモマグサやシソバキスミレがあります。
**遺存種(レリクト)**とは、昔は広い範囲に分布していたのに、いまではごく限られた土地にしか残っていない生物のことです。
高山植物が氷期をどう乗り越えたかについては、研究者のあいだで二つの仮説が議論されてきました。氷河に覆われた土地では一度絶えてしまい、まわりの避難地(レフュージア)から氷期の後に広がり直したという説があります。もう一方は、氷床から突き出た氷のない場所(ヌナタック)にとどまり、氷期のあいだずっとその場で生き抜いたという説です。実際には、たどった歴史は種ごとに違います。
日本の高山植物の多くは、北極を取り巻く周北極地域に分布する寒地の植物でもあります。山岳の避難地で氷河期を越えた集団の中には、いま絶滅の危機に立たされているものもあります。
特異な分布を示すカトウハコベやシロウマチドリも育つ
固有種に加えて、分布の仕方が特異な植物もこの山の顔ぶれに入っています。カトウハコベ、ナンブイヌナズナ、ミヤマハンモドキ、シロウマチドリがその例です。
シソバキスミレは、雪田のまわりで雪に削られる力が強く働く斜面に、ほかにはない群落をつくります。このスミレについては、北海道大学の植物園も2019年4・5月号の「植物園だより」で取り上げていて、高山帯で蛇紋岩が崩れた場所に生える、丈の低い植物だと説明しています。
夕張岳は1996年、山と高山植物群が一緒に国の天然記念物となった全国初の例
1996年(平成8年)6月19日、夕張岳は「夕張岳の高山植物群落及び蛇紋岩メランジュ帯」の名で国の天然記念物に指定されました。山と高山植物群をひとまとめにした指定は、全国でこれが最初です。市民が粘り強く続けた運動が、この指定を実現させました。
指定の範囲は、夕張市と空知郡南富良野町の2つの自治体にまたがります。文化庁の国指定文化財等データベースは、地質と植物の両面からこの場所の価値を説明しています。植生はわずかな距離を歩くだけで大きく変わり、道内の山で目にする高山植物のほとんどの種がここで見られるとされています。種の数を600種以上とする紹介もあります。
夕張岳は国内最大規模の蛇紋岩分布地域にある
地質の面で軸になるのは、やはり蛇紋岩です。夕張岳一帯は、蛇紋岩の分布地域として国内最大規模を誇ります。
北海道の骨組みは、白亜紀から第三紀にかけて東と西の陸塊がぶつかってできたとされています。夕張岳は、このときの衝突でできた脊梁山脈の一部にあたります。脊梁山脈は、島や半島の真ん中を背骨のように通る山脈を指します。
蛇紋岩メランジュ帯は大小の岩塊が入り混じった地質の帯
天然記念物の名前に入っているメランジュは、泥岩のような細かい粒の基質に、大きさが数センチメートルのものから数キロメートルに及ぶものまで、種類もばらばらの岩塊が入り込んだ地質体です。混合を意味するフランス語が、名前の由来になっています。
地質図に描ける広がりを持ち、幅が数十メートル以上あるものをメランジュと呼ぶのが一般的です。それより小さなものには、混在岩や乱雑層という呼び名が使われます。
メランジュは付加体とも関係があります。海洋プレートが沈み込むとき、海底にたまっていたチャートや、海溝にたまった砂岩と泥岩の互層がはぎ取られて陸側のプレートに張り付き、その過程でできた堆積物がメランジュの形成に関わっています。夕張岳の蛇紋岩メランジュ帯は、こうした岩塊が混ざり合った地質が帯状に続く場所です。
指定翌年の1997年9月に固有種を含む400株近くが盗掘された
天然記念物になった翌年の1997年9月、夕張岳では固有種を含む400株近くの高山植物が掘り取られて盗まれました。盗掘は、この山が抱える深刻な問題です。
この被害をきっかけに地元の市民らが動き、北海道内の自然保護団体などと手を組んでネットワークを結成しました。高山植物を守る制度の導入と盗掘防止を訴えるシンポジウムを開き、その活動を毎年続けています。夕張岳は国有林にあたるため、この会は国と協定を結び、ボランティアで山のパトロールを担っています。こうした動きも後押しとなり、2001年には北海道が、希少な野生動植物を守る条例を制定しました。
高山植物は自然公園法などでも守られていて、採ったり掘り取ったりすることは禁止されています。花は眺めるだけにとどめるのが前提で、登山道の外に踏み込んで荒らすことも厳禁です。
夕張岳の植物調査は1912年から続いている
この山の植物を調べる試みは、かなり古くから始まっています。1912年(大正元年)の初夏には、柳津秀雄氏らが夕張岳と小夕張岳のあいだを詳しく調べたことが、北海道大学の記録に残っています。大正のはじめから、植物の採集を目的にした調査が行われてきた山です。
夕張岳は花の百名山を含む4つの百名山に選ばれている
夕張岳は、花の百名山のほか、日本二百名山、北海道百名山、一等三角点百名山にも名を連ねています。お花畑や岩峰、沼があり、変化に富んだ山です。
花の百名山は田中澄江氏が花と山の結びつきで選んだ100座
花の百名山という山の選び方は、田中澄江氏が書いた本『花の百名山』によって知られるようになりました。この本は、四季の花と山との結びつきから百の山を選び抜き、山にまつわる歴史や伝説、著者自身の思い出をつづった随筆をまとめたもので、1981年には読売文学賞に輝いています。その後には、山の顔ぶれを十五年ぶりに改めた『新・花の百名山』も出版されました。
夕張岳の山頂には最上位の一等三角点がある
三角点は、国の位置の基準となる測量の点です。全国に約10万点あり、その多くは山の頂上や眺めのよい場所に設けられています。等級のうち最も上にあたるのが一等三角点で、夕張岳の山頂にも設置されています。
夕張山地の南端に位置し、山地の最高峰は芦別岳
夕張岳は、夕張山地(夕張山脈)の南の端にあります。ただし山地でいちばん高い山は夕張岳ではなく、芦別岳です。
夕張岳の登山は冷水コースで距離13km前後、上りの累積標高差は約1,800m
日帰りで登れるルートのひとつが、冷水コースです。起点はゲートで、冷水コースの分岐、冷水の沢の水場、望岳台、前岳湿原と進んで山頂に至ります。歩く範囲の標高は、いちばん低い地点で約590m、高い地点では1,600m台に達します。
| 区間 | 所要時間の目安 |
|---|---|
| ゲートから冷水コース分岐 | 約100分 |
| 冷水コース分岐から冷水の沢の水場 | 約30分 |
| 水場から望岳台 | 約60分 |
| 望岳台から前岳湿原を経て山頂 | 区間ごとに20分から30分ほど |
望岳台を越えると急な登りがひと段落し、そこから先は木道が続きます。山頂の手前には社があり、ここを頂上だと思ったら本当の山頂はもう少し先にあった、という登山者の体験談も残っています。
晴れた日には、山頂から日高や大雪の山々を見渡せます。2021年6月の取材では、雲海の上に芦別岳と十勝岳、幌尻岳が頭を出していました。とはいえ天気には左右されやすく、2019年7月の登山記録では山頂からの展望がまったく得られていません。
冷水コースのほかに西側の馬の背ルートと東側の金山ルートがある
登山口は一つではありません。西側には冷水コースのほかに馬の背ルートがあり、林道を通って夕張岳ヒュッテのある側から山に入る道もあります。東側から取り付くのが金山ルートです。
西側の林道が通れなかった時期には、金山ルートを選んで登る人もいました。ただし金山ルートは藪が深く、道筋がはっきりしない場所があります。林道のゲートから2.4km入った地点で大きな崩落があり、車両が通行できなくなったという報告もあります。
登山口へ続く鹿島林道は延長12.3km、駐車スペースは4台から5台分
夕張市側の鹿島林道を使う場合、延長は12.3kmで、未舗装の区間が長く続き、走るのにかかる時間は20分ほどです。登山口近くの駐車スペースは4台から5台分ほどと狭く、トイレもありません。平日でも駐車場の7割ほどが車で埋まっていたとの報告があるので、朝早めに着いておくと安心です。
この林道は、斜面の崩落で通行止めになった時期があります。3年ぶりに通れるようになったときには、夕張岳ヒュッテでオープン式が開かれました。林道を通れるかどうかで登山口までのアクセスが大きく変わるため、出発前には夕張市の情報を確かめてください。
夕張岳ヒュッテは収容30名、寝袋と食事は持参
夕張岳ヒュッテは、夕張市が管理している山小屋です。30名まで泊まることができ、宿泊には利用料がかかります。
水とトイレは使えますが、寝具や調理器具は置かれていません。寝袋と食事は自分で用意して持ち込みます。水は、煮沸するかろ過してから使う必要があります。管理人がいるのは夏の期間だけで、小屋を開ける日程は年ごとに変わります。
夕張岳の登山道は路肩の崩れや木道の傷みに注意が必要
2026年6月28日のパトロールで見つかった路肩の崩れと傾いた木道
北海道警察の山岳パトロールは、2026年6月28日に夕張岳の登山道を歩いています。この日の天気は、登山口のあたりが曇りで、気温は18度でした。山頂では強い風が吹き、寒さが身にしみる状態でした。
登山口から望岳台までのあいだには、コース脇が崩れて道幅が狭くなった場所がありました。木道にも、傾いた箇所や崩れた箇所が見つかっています。雨に濡れた木道は滑るので、こうした場所では一歩ずつ慎重に足を運ぶ必要があります。
標高1,500m付近の雪渓と前岳湿原付近の腐食した木道
北海道警察の山岳パトロール情報は、標高1,500m付近で登山道の一部が雪渓に覆われ、転倒しやすくなっている状況も伝えています。前岳湿原のあたりからは、何か所かに分けて木道が敷かれています。ところがその一部は腐食が進んでいます。花を眺めるときも、足元への注意が必要です。
長い行程に備えて防寒着と水分、栄養を用意する
往復の道のりが長いため、時間にも体力にも余裕を持たせた計画が欠かせません。パトロールでは、防寒着を持っていくことと、こまめに休みを取りながら水分と栄養を補給することを勧めています。どのコースを選ぶにしても、ヒグマと道迷いへの備えは欠かせません。
夕張市は人口7,334人、夕張メロンと炭鉱の歴史で知られる町
夕張岳がある夕張市は、面積が763.07平方キロメートル、2020年の人口が7,334人の市です。かつては炭鉱の町として栄えましたが、人口が激しく減って歳入が落ち込んだことなどが重なり、2007年3月には財政再建団体へ移行しました。
いまの夕張市を支えているのは、夕張メロンを中心とした農業と、観光です。観光ではスキー場のほか、石炭の歴史や映画などが題材になっています。
夕張メロンが全国で名の通る特産物になったきっかけは、1960年(昭和35年)の夕張メロン組合の結成でした。組合が新しい品種の開発に成功し、夕張メロンの名が全国に届きました。1980年には、石炭の歴史村の中心となる施設として夕張市石炭博物館が開館しています。鉄道の廃線跡も、観光の資源として生かされています。
夕張岳でユウバリソウとユウバリコザクラを見るなら6月中旬から下旬
北海道夕張市の夕張岳は標高1,668mの花の百名山で、固有種のユウバリソウとユウバリコザクラは6月中旬から下旬に盛りを迎えます。花の多さを支えているのは蛇紋岩のやせた土壌で、1996年には山と高山植物群がそろって国の天然記念物になりました。








